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性能評価の趣旨を理解していないベンダ

edited by DB Online   2020/04/13 11:00

 今回はユーザが、プロジェクトの実施中に一方的に契約解除を申し入れたという内容です。民法改正の「契約不適合責任」の一つの類型になりそうな事例ですが、どういった結末になったのでしょうか。

最長10年ベンダは責任から逃れられない

 前回は民法改正がITの契約に及ぼす影響について紹介しました。その中でも特に「瑕疵担保責任」がなくなり、代わって「契約不適合責任」が適用されるという部分については、私の働く政府でも、これを契約書にそのまま入れられるのか大いに悩んでいるところです。

 従来、納品してから1年経てば不具合を修補する責任から逃れられた売主(ベンダ)が、今回の民法改正で最長10年間、その責任から逃れられなくなります。ベンダからの反発も強く、なかなか契約書にサインをしてくれないという事象がそこかしこで起きています。

 この問題について検討している情報処理推進機構(IPA)の民法改正ワーキンググループでも、ベンダ側の委員からは「そもそも多くのユーザは、十分な受入試験を行っていない。それをしていれば見つかったはずの不具合を、何年も経ってから言われても対応しきれない」、「開発プロジェクト中に、ユーザが充分に役割を果たさず、それが原因で開発が失敗しても、責任はベンダに押し付けられる」という声がよく挙がりました。

「分かっていない!」とベンダを切り捨てたユーザ

 さて、今回の事件は、そんな民法改正にも若干関わるお話です。ベンダの作業の様子を見て、自分達の望むシステムを期限内に作ってくれそうにないと感じたユーザが、プロジェクトの実施中に一方的に契約解除を申し入れたという内容で、まさに「契約不適合責任」の一つの類型になりそうな事例です。

 ユーザ側の途中解約は妥当なものだったのか。逆に途中解約しようとするユーザは、どんなことをしておかなければならないのか。まずは事件の概要からご覧ください。

(東京地方裁判所 平成31年2月4日判決より)

 あるユーザが、ITベンダに対しレセプト点検というシステムの開発を委託した。開発はITベンダの持つ類似システムをカスタマイズして行う方針で進められていたが、ユーザが、まだ開発途中の段階でプロジェクトの一時中断をベンダに申し入れた。理由は「このままでは希望に沿ったシステムが開発されるかどうか疑問がある」というものだったが、結局、開発が再開されることはなく、当初予定していた納期も過ぎてプロジェクトはとん挫してしまった。

 その後、ユーザはITベンダが納期までにシステムを完成させられなかったとして契約の解除を主張するとともに原状回復の請求をしたが、一方のITベンダはユーザがシステムの開発代金を払わなかったことによる損害賠償、または一方的な解除によるユーザによる損害賠償を請求し裁判となった。

 なお、ユーザがITベンダに支払う費用の合計は1億円あまりで、契約締結直後にまず3000万円が支払われたが、その後毎月支払うはずだった570万円については2カ月分だけが支払われたのみだった。

 少し補足をしましょう。ユーザがプロジェクトを一時中断させたのは、ITベンダにシステムの性能検証を一度やって欲しいという希望からでした。プロジェクトを中断しての性能検証は、もちろん当初見積もりに入っておらず、追加の作業ではありましたが、ベンダはこれを承知し、性能検証のやり方についてユーザに提案しました。

 ところが、説明を受けたユーザは「このシステムにおける性能検証の趣旨を分かっていない」と述べ、結局、性能評価も行われることなく納入期限を迎えてしまいました。そしてユーザは、ITベンダが期限を守らなかったこと、このまま続けても自分たちの望むシステムはできないと考えたこと等により契約の解除を申し立てたのです。


著者プロフィール

  • 細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

    ITプロセスコンサルタント 東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員 1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より2012年まで日本アイ・ビー・エム株式会社にてシステム開発・運用の品質向上を中心にITベンダ及びITユーザ企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行なう。現在は、東京地方裁判所でIT開発に係わる法的紛争の解決を支援する傍ら、それらに関する著述も行なっている。 おもな著書に、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか? 49のトラブルから学ぶプロジェクト管理術』 日本実業出版社、『IT専門調停委員」が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則』。

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