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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

性能評価の趣旨を理解していないベンダ

ベンダはITのプロだが業務は素人

 ご覧の通り判決は、ITベンダ側の一方的といってもよい勝利で終わりました。ITベンダの性能評価が趣旨に合わないとしても、その後、なんの対応もせずに、最終的には契約解除というのはIT開発の常識からみても、あまりに稚拙な対応だったと言わざるを得ません。

 問題は、なぜユーザがそんな稚拙な対応をとらざるを得なかったのかという点です。そもそも、その実施方法で、これほどにモメてしまう性能評価なら、なぜ最初からプロジェクトの計画に入っていなかったのでしょうか。ユーザ・ベンダ共に勝手な思い込みがあったのではないのかと思われます。こうしたことは、システムの機能要件よりも、その性能や使い勝手といった非機能要件でよく起きることなのです。

 例えば、システムの応答速度について、ユーザから特に指示がなければ、ベンダは、とりたててそれを早めるような工夫はしません。

 「このデータベースに検索をかければ2,3秒はかかる、インターネットを介した通信が加わると、さらに5秒程度はかかるので、オペレータがボタンを押してから画面が表示されるまでには7、8秒はかかる。コンピュータシステムの一般的な常識から考えても、そんなところでいいはずとベンダが勝手に思い込む。一方でユーザからすると、自分たちの業務を考えれば応答速度は3秒以内というのは常識で同じようなシステム開発の経験があるベンダなら、当然、それくらいは分かっているはずだと思い込む。結局、双方の思い込みのズレが修正されないまま、開発が進み、ある時、速度を試して初めてお互いの認識齟齬が分かる」

 こうしたことはIT開発の現場でよく起きることです。ベンダとユーザがお互いに「相手は分かっているはず」とおかしな期待を持ったままプロジェクトが進むとこうした結果になってしまうのです。

 有り体に申し上げれば、ユーザ側は、こと業務に関してはベンダを信頼しすぎないことです。私は、今政府のITシステム作りをユーザの立場で行っていますが、いくらベンダが政府との取引には慣れている、業務も把握していると言っても、政府独特のセキュリティの考え方や文書管理の方法についてよく理解しておらず、勝手なシステム構想や要件定義をしてくるベンダは数多くいます。

 提案の段階で、ベンダが「すべてわかっております、お任せください」と言ってもそれはあくまでセールストークと受け止めるべきですし、商取引の現場では当然です。

 ベンダとIT開発の契約を結んだら自分たちの業務について、できるだけ細かくできれば実際の現場を見せながら説明し、現在の課題や悩みを伝えることが必要でしょう。そしてこのIT開発によって、どのようなことを期待しているのかをベンダに分かってもらうこと、そんな努力がユーザには必要なのだと思います。

 今回の事件のユーザは、予定外の性能試験を依頼した上、その方法が間違っているとベンダを無視したことが、直接の敗因だったわけですが、それ以前に、ベンダに自分たちの業務を理解させ、悩みを共有し、どんな機能をつくり、どんなテストをするのかについて、しっかりと検討しなかったことが、真の原因ではなかったかと思います。

 冒頭に「契約不適合」という言葉を持ち出しましたが、これはこれまでの裁判の結果からみても、単にユーザの提示した“要件”を忠実に実現できなかったということを指すのではなく、ユーザが契約した目的、つまりユーザが目指す新しい業務の実現に資するITを作ったかが問題になります。

 無論そうしたことを理解する努力はベンダにも必要ですが、ユーザはあくまで相手は業務の素人であると考え、ベンダの理解を促す努力が必要になるのではないでしょうか。ことIT開発に関してユーザは、“お客様”であるよりも“パートナー”であるべきだと私は考えます(了)。

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

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