アマゾン・エフェクト!アマゾン・ショック!
日本に住んでいると実感が難しいのですが、DXの進展著しい米国におけるアマゾンのインパクトには想像以上のものがあります。このアマゾン・エフェクトと呼ばれるインパクトは、どのようにして生み出されたのかを解き明かすことが今回のテーマです。
1990年代の半ばに、インターネットの勃興と時を同じくして進んだ米国の「IT革命=IT経営」は、これも同じ時期に登場したアマゾンに強い影響を受けて進化してきました。DXの代名詞ともいえるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の中でも、小売り業というリアルビジネスの世界でDXをけん引してきたアマゾンは、米国の小売り業全般における存在感を強烈に強めつつあります。それは日本の現状と比較すると、未来予想図とでもいえるようなショッキングなものであると著者は感じています。アマゾンの営業利益の7割以上を叩き出すクラウドコンピューティングサービスであるAWSをはじめとして、いまやアマゾンは多様なビジネスモデルのコングロマリット企業とでもいえる存在ですが、今回はアマゾンのEコマース事業に焦点をあてて、そのビジネスモデルを解剖してみたいと思います。
経済産業省の報告書 によると、小売市場の規模は米国4,528億米ドルに対して日本は953億米ドルであり、小売市場のEC化率は米国11.8%(534億米ドル)に対して日本は7.9%(75億米ドル)と米国が先行していることがわかります。しかし注目すべきは、米国Eコマース市場におけるシェア分布です。eMarketerによると、米国小売Eコマース市場(2020年度)に限っていえば、売上シェアは、アマゾンが38.7%でトップ、ウォルマートが5.3%で2位、3位がeBayで4.7%と、アマゾンが圧倒的な独走態勢にあります。
やや古いデータですが、英カンターコンサルティングの報告によれば、リアル領域を含めた米小売り業全体の売上シェア(2017年度)は、1位が米ウォルマート(売上高は約3748億ドル)、2位が米クローガー(同、約1159億ドル)、3位が米アマゾン(同、約1030億ドル)と、米ウォルマートにまだまだ水をあけられている状況です。しかし米国の投資会社であるビスポーク・インベストメント・グループは、アマゾンによって業績が悪化すると予想される小売り業の銘柄指数である「デス・バイ・アマゾン指数」(アマゾン恐怖銘柄指数)を発表していますが、その中にはウォルマートなど、名だたる小売業を含む54社が入っています。
アマゾン・エフェクトのみがその原因であると断定することはできませんが、実際にブロックバスター(ビデオ・DVDレンタル)、サーキット・シティー(家電量販店)、コンプUSA(PC小売)、トイザらす(おもちゃ量販店)、ボーダーズ(全米第2位の規模を誇っていた書店チェーン)が市場からの退場を迫られた背景には、アマゾン・エフェクトがあったというのが共通の理解となっています。米国においてはリアル領域を含めて、既にウォルマートを抜いて小売業全体の頂点に立つことが予想されているアマゾン。世界を見渡しても、アマゾンに対抗しうるのは、世界一の人口から膨大な規模の小売市場を持つ中国のアリババとJDドットコムくらいしか見当たりません。アマゾンの、その強さの秘密はどこにあるのでしょうか。
地球上でもっともお客様中心の企業
アマゾンのFacebookページであるAmazon.comには、このようなビジョン・ステートメントが書かれています。
わたしたちのビジョンは、地球上でもっともお客様中心の企業になることです。そのために、人々がオンラインで買いたいと思うあらゆるものを探しだし、見つけだすことができる場所をつくることです。
Our vision is to be earth’s most customer centric company; to build a place where people can come to find and discover anything they might want to buy online.
アマゾンの今日の隆盛は、アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスが創業当時から思い描き、揺るぎないコミットメントをもってその具現化にまい進してきた、このビジョンを起点に作り上げられたものと考えられています。ブラッド・ストーンは、その著書『ジェフ・ベゾス 果てなき野望~アマゾンを創った無敵の奇才経営者』(原題:The Everything Store)で、創業当初からのアマゾンの思想を「弾み車」(FLYWHEEL)と呼ぶビジネスモデルで説明しています。
このビジネスモデルに書かれているいくつかの要素は互いに複雑に関連しあっていますが、最終ゴールである「成長(GROWTH)」のスピードをあげることとは、「購買量(TRAFFIC)」の増加スピードを増やすことだとみれば理解しやすいと思います。
まず「売り手(SELLERS)」が増えれば、「商品の選択肢(SELECTION)」が増えます。するとCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客経験)が改善されます。だから「購買量(TRAFFIC)」が増えます。
購買量が増えれば、ウェブサイトの運営に必要なサーバーやフルフィルメントセンター(物流センター)などの固定費を効率的に利用できます。だから「低コスト構造(LOWER COST STRUCTURE)」にできます。すると商品の「低価格化(LOWER PRICE)」が実現されますから、やはりCXを改善できます。すると購買量が増えるというわけです。
さらに購買量が増えれば売り手が嬉しいので、売り手が増えますから、結果として商品の選択肢がさらに増えます。するとCXがさらに改善されて、さらに購買量が増えます。このようにして弾み車の良循環は、どんどん加速していきます。
その結果が数億品目と言われる膨大な商品点数です。著者はグーグルの元CEOであるエリック・シュミットが2014年に言った「グーグルのライバルはビング(Bing)やヤフーだと思うだろう。しかし、私たちの一番の強敵はアマゾンだ」といった言葉を思い出します。シュミットは今日のアマゾンの隆盛を的確に予見していました。オンライン商品検索で世界1の人気を誇るのは、グーグルでもなく、その他のサーチエンジンでもありません。アマゾンの類いまれない品揃えとカスタマーレビューという信頼できる情報の宝庫は、グーグルの検索エンジンをはるかにしのぎます。eMarketer によれば、いまやアメリカのオンラインショッピング利用者の半数以上が、アマゾンの商品情報をもっとも信頼していると答えているのです。