「まず何より、運用負荷を減らしたかったんです」。経営情報戦略室 業務システム開発1課の中村俊一 課長は、ERPをクラウドに移した理由をこう話す。
フォスター電機は、2008年にメインフレームを使っていた業務システムを欧州SAPのERPに変更。以来、SAP ERPを基幹業務システムとして使ってきた。しかしビジネスの成長と2011年に起こった東日本大震災をきっかけに自社でサーバーを維持管理していくことへのリスクなどから、「オンプレミスに限界を感じていた」(中村課長)。2015年にはハードウェアの保守期限切れをきっかけに自社でのサーバー運用を止め、国内のITベンダーが管理するクラウドにERPの基盤を移していた。
移行後、当初の目的であった「基幹システムのIT-BCP確立」、「IT部門の運用工数削減」については、一定の目標を達成することができたが、約5年間運用を続けてきた中で、さまざまな課題が見えてきた。
システムの監視ソフトも運用負荷になっていた。主要なクラウドサービスでは、基盤を監視するサービスもラインアップに組み込まれていて、監視ソフトそのものの運用を気にせずにインフラの動作確認や処理のスループットを可視化したりできる。
フォスター電機は2015年の脱オンプレミスを皮切りにクラウド活用へと舵を切り、2017年には海外拠点MES(製造実行システム)を米グーグルのGoogle Cloud Platform(GCP)上で運用を始めていた。この時点で、SAP ERPもパブリッククラウド環境に移行する構想が立ち上がったという。
インフラ性能を評価
2017年のミャンマー工場のMES稼働時、フォスター電機は「クラウドインフラの基本性能を評価して、GCPを中心に使っていくことにした」(中村課長)。
グーグルは自社専用の海底ケーブルに投資をするなど専用の通信回線を整備していて、GCPのユーザーもこれを使える。グローバルに販売や製造拠点を持つフォスター電機にとって、各国のGCPリージョン間をつなぐネットワークが使いやすく高品質なのは魅力的だった。ほかにも、Google BigQueryのようなデータ分析基盤サービスが充実していることも選択を後押しした。
MESを運用しながら、フォスター電機ではERPもGCP上で運用できると確認していった。そこで、SAPなど基幹システムを中心にクラウドインテグレーションを専業に展開しているBeeXと共に2020年1月にERPの移行プロジェクトを本格始動、5月には完了させた。GCPのインフラが安定していたこともあるが、事前の検証を徹底して行ったことや移行リハーサルを実施したこともあり、「移行直後も不具合はおこらなかった」(中村課長)という。
基盤の切り替えに伴い、インフラ性能は大きく向上した。バッチの処理時間は最大で82%向上し、基盤の月額利用料も削減できた。「基盤のCPU性能が向上したとみている」(中村課長)。クラウドプラットフォーマーは規模が大きくなるほどハードウェアの更改に投資がしやすく、インフラの基本性能を高く維持しやすい。狙い通り、システムの運用負荷も改善した。