双方が債務不履行、裁判所はどう扱うのか
今回の話題は、これまでに何度も取り上げているIT開発プロジェクトの遅延についてのお話です。この話題については、今までもベンダがプロジェクト管理義務を果たしたか、ユーザはプロジェクトの成功に向けて十分な協力を行ったかという切り口でお話してきましたが、今回は少し変わった視点で、双方の債務不履行について考えさせられる判例が見つかったので取り上げます。
ITに限らず請負契約は発注者が要望するモノを受注者が成果物として納め、その対価が支払われます。受注者には成果物を納める、発注者にはお金を払うという“債務”があるわけです。
その際、お金の支払いは必ずしもすべての成果物が納められた後とは限らず、成果物が分割して納められて、それに対応する費用を支払うケースもあれば、内金のような形で、モノができる前に部分的に支払うケースもあります。この辺りは双方の合意、つまり契約によって決まります。
分割にした代金の支払いをユーザが停止した事例
今回のケースは分割払いが行われた事例で、裁判の勝敗を分けた大きな原因がこの支払いについてでした。端的に言うと、分割払いで実施されていたプロジェクトが途中で頓挫しそうな場合、ユーザはその支払いを継続すべきか否か、それによって裁判の勝敗が左右されたのです。
その意味ではプロジェクト開発を円滑に進めるためにというよりも、紛争が起きたときの対応について、ご参考になるかと思い取り上げることにしました。まずは事件の概要から見ていくことにしましょう。
(東京地方裁判所 平31年2月4日判決)
ある医療機関のユーザがベンダにレセプト点検システムの開発を委託した。開発はベンダの持つレセプト審査システムのエンジンをカスタマイズして行うこととなった。対価の合計額は1億1,700万円だったが、支払いは契約締結直後に3,000万円、残金を開発期間中、毎月570万円の分割で支払うというものだった。
ところがユーザは、この費用を最初の2か月払ったのみで、以降の支払いについては「希望に沿ったシステムが開発されるかどうか疑問がある」として、本件システム開発を一時停止するよう求めるとともに支払いも停止した。その後、結局、当初の開発期間を過ぎてもシステムは開発されず、ユーザは契約解除の意思表示を行うとともに、原状回復を求めて訴訟を提起した。
ベンダはこれに対して、ここまでにかかった費用として4,600万円の支払いも求める反訴を提起した。
なぜ、ユーザが突然「希望に添ったシステムが開発されるかどうか疑問がある」と言い出したのか。この点について補足します。
この開発は、引用文中にある通り、ベンダの持つエンジンをカスタマイズすることで作成することになっていました。ユーザとしてはカスタマイズというからには、そのエンジンと、ユーザの業務を比較し、評価・分析をするというFit & Gap が行われるべきと考えていたらしいのですが、ベンダは開発着手後、これを行いませんでした。
それでは本当に自分達の業務にFitしたシステムはできないと感じたユーザが、Fit & Gapの実施を求めました。しかし、やはりベンダが実施する様子が見えなかったため、支払いの停止を行ったようです。