置き去りにされる「日本型経営」
今、経営にはスピードが求められていると言われています。少子高齢化、BRICs諸国の経済成長、M&Aの一般化、企業倫理に対するプレッシャーの増大、激化する市場競争、顧客ニーズの多様化など急激に変化する経営環境に対峙していくために、企業は「スピード経営」のスローガンだけではなく、本当に、迅速な行動をとっていかなければ生き残れない時代になってきました。
この「スピード経営」の対極にあるのが、従来型の「日本型経営」です。日本型経営の最大の特徴は「ボトムアップによる全社型コンセンサス」です。多くの企業では、最終的な意思決定を下す経営者は、全社的なコンセンサスが醸成されるまで意思決定を行いません。たとえ意思決定を行ったとしても、現場のコンセンサス作りは現場に任せ、強烈なトップダウンで全社員の意識改革を全力で進める、といった行動を取らないのが一般的です。
つまり、慎重にコンセンサスを作り上げ、一気に前に進んでいく、というスタイルで、かつてはこのスタイルに世界中の企業、経営者が注目したわけです。これは時間をかけてコンセンサスを取っていても、未だ市場のニーズが変化していないという場合には大成功を収める可能性の高い経営スタイルですが、一方で、日本企業が失敗するプロジェクトが、コンセンサスが取れて意思決定をした時には市場が変わってしまったとか、コンセンサスが取れる前に意思決定を行ったが、現場のコンセンサスが最後まで確立しなかった、という場合に集中するのはこのスタイルのためとも言えます。
ますます加速する「意思決定」のスピード
既にお気づきの様に、現在、企業を取り巻く経営環境はこれまでにない速さで変化しており、旧来のスタイルでは「意思決定が間に合う」確率が低くなってきています。そして、独自の差別化を打ち出せなくなった場合に何をするかと言えば、「間に合った」勝ち組企業のモデルを模倣し、追随の努力に投資を行わざるを得なくなります。そして、企業の提案力は低下し、収益率も低下するという悪循環にはまるわけです。
誤解の無いように補足させて頂きますが、欧米型のトップダウン型経営が日本型のコンセンサス型の経営より優れているという意味ではありません。どちらの場合にも、何か意思決定を行おうとすれば意見の対立は必ずあります。
重要なことは、これらの意見対立の内容を適切に評価し、「如何にして正確な意思決定を迅速に行えるようにするのか」ということです。そして、注意しなければならないことは、議論が「客観的な事実」に基づいて行われているのか、ということです。議論に参加するそれぞれのメンバーが、十分なデータや検証を行わず思いつきや勘で発言をしていれば、コンセンサスは取れませんし、意思決定者が意思決定を行うことができないのは当たり前なのです。
実は、このケースが非常に多く、客観的な事実は十分に提示されないが、結局「声の大きい人の意見」が通っていく、という話は身の回りにいくらでもあるのではないでしょうか。
スピード経営の本質
ここでもう一度「スピード経営」に戻ります。多くの企業が、この「スピード経営」を標榜し、努力しています。では、スピード経営とは何を意味するのでしょう。例えば、経営者の意思決定を迅速に行うであるとか、商品開発のスピードを向上するであるとか、顧客への提案を速くするであるとか、ITサービスの導入を速くするであるとか、様々な活動が考えられます。しかし、これらの例だけでは、本質の一面だけしか見えてきません。企業で働くすべての人々がスピードを上げていくためには「スピード経営」をしっかりと定義する必要があるでしょう。
スピード経営とは「データ収集、意思決定、実行」のプロセスを迅速に回していくことです。つまり、豊富なデータに基づき正確な状況認識を行い、その状況認識に基づき意思決定の精度を出来る限り向上し、そして実行に移す。それだけではなく、実行した結果を適切に評価し、成功に向けて更に次の意思決定を行う、ということです。先の経営課題に即して、この「データ収集、意思決定、実行」のプロセスを考えてみると、最大の問題は「データ収集」を行う能力にありそうです。これを検証していきます。