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北川裕康のエンタープライズIT意見帳

BABYMETALという「シン結合」からイノベーションを考える


 33年以上にわたりB2BのITビジネスにかかわり、現在はクラウドERPベンダーのインフォア(Infor)のマーケティング本部長の北川裕康氏が本音と洞察で業界動向を掘る連載。今回はイノベーションについて考えます。

 私は、根っからのメタルオヤジです。コロナ禍でなければ、年間数回はライブに足を運びます。特に好きなのが、アメリカのプログレバンドのドリームシアターです。そして、娘よりも年齢が下のBABYMETALが大好きです。BABYMETALを観て思うのですが、これはイノベーションだと。BABYMETALは、名前の通りメタル音楽を基盤に、神バンドによる超絶演奏、アイドル、ダンス、日本の伝統の狐が見事に組み合わされています。その結果、メタル野朗からアイドルオタクまで幅広いファンの心を鷲掴みして、昨年のNHKの紅白歌合戦にも登場しました。

 なぜBABYMETALがイノベーションかというと、新結合からです。今時の言葉としては、シン結合とでも言いましょうか。有名な話として、経済学者のヨーゼフ・アロイス・シュンペーター氏は、初期の著書『経済発展の理論』おいて、イノベーションではなく「新結合(neue Kombination)」という言葉をイノベーションの意味で使っています。

 BABYMETALは色々なものを結合しているので、イノベーションだと思うのです。BABYMETALが登場するまでは、メタルはメタル、アイドルはアイドルと、きちっとした境界がありました。その境界をシン結合で、ぶっ壊したともいえます。しかも、それ以上の組み合わせがなされているところがイノベーションです。アニメカルチャーが浸透した他国でも、BABYMETALは大人気です。海外の人には、アニメの主人公に重なる部分があるのではないでしょうか。ぜひ、熱狂のライブを見てみてください。そういう意味では、アイドルとテクノポップを組み合わせたPerfume、本格的なCGとアイドル、コンサートを組み合わせた初音ミクも、ある意味イノベーションなのかもしれません。なんか私、アイドル評論家みたいですね。

 私たちはイノベーションというと、何もない状態から何かを生み出すように考えがちですが、新しい組み合わせで何か違うものを生むと考える気持ちが軽くなります。自分や組織が持っている知識やノウハウを、持ってない何かと結びつけて、新しいものを作ればいいのです。ポイントは、自分に持っていないものをどう探し出すかです。うちに籠っていても見つけ出せないので、色々な分野の本を読む、色々なコミュニティに参加するなど、自分とは関係ないことを知る機会を自ら作り出さないといけません。

 このシン結合を生むためには、異種の人たちがつながったりすることも重要です。こうしたインタラクションを生むための空間を色々な企業が試しています。例えば、ヤフージャパンのオフィス。レイアウトに拘り、人がわざとぶつかるようにしてオフィス家具を配置して、それぞれの社員が持つ知識を結合させているようです。[※1]

 私もこの考えから、シン結合を試したことがあります。それは、SAS Instituteに勤めていた時の「夏休み親子でデータサイエンス」という企画です。企画の始まりは、社内のサイエンスの知識をもつ実装グループの会社への満足度があまり高くなく、かつ、会社として社会貢献が必要になってきていたので、これらを一気に片付けようというところからです。この企画では、小学生の夏休みの宿題を親子で仕上げてもらうのですが、仮説を立て、データを取得して、分析して、仮説を検証するデータサイエンスの流れにそって、親子で協力してポスターを作成してもらいます。仮説とデータ取得は事前にお願いして、イベント当日は実装部隊のスタッフが、分析、検証とその結果のポスター作りをサポートします。

 子供たちは、最初は訳がわからないのですが、ポスターを作るくらいになると目の色が明らかに変わってきて夢中になってくれました。ここで私が組み合わせたものは、なんのことはない、統計局が毎年実施しているグラフコンテスト、学会であるようなパネル発表、表彰(金賞とその他全員に銀賞、参加した社員には銅賞)、そして、社員のもつデータサイエンスです。それらを材料にちょちょちょいと料理をしました。すごいイノベーションまではいかなかったかも知れませんが、いまだに継続されているイベントとして社内外の評判は良く、また、私はイノベーションを実践する良い練習になったと思います。

 そして、このイノベーションには、書籍『突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』(ロベルト・ベルガンティ 日経BP)から、2つのアプローチがあると最近学びました。問題解決のイノベーションと、意味のイノベーションだそうです。これはどちらが優れているというものではなく、補完関係になるとのことです。

 問題解決のイノベーションは世の中にかなり溢れており、自社にない外部のイノベーションを積極的に利用するようなオープンイノベーション、クラウドソーシングなんかもその類になります。今、大流行りのデザインシンキングも、問題解決のイノベーションになります。デザインシンキングは、ターゲットオーディエンスを注意深く観察して、潜在的な課題や用事を見いたし、アイデア出しをして、そこからプロトタイプを作成して、検証するというプロセスを行います。まさに問題解決ためのアプローチです。この問題解決のイノベーションの課題としては、そのようなアイデアが簡単に手に入るのはいいですが、アイデアに溺れてしまうことです。また、すぐに模倣されるという課題があるのではないでしょうか。「夏休み親子でデータサイエンス」も、他の団体に簡単に模倣されました(苦笑)。

 それに対して、意味のイノベーションは、企業のもつビジョンを起点に、企業の中から外に向かっていき、その意味(なぜ)を徹底的に議論して、解決方法のソリューションを提案するものです。社内での信頼あるグループでの徹底した建設的な批判で磨かれるそうです。これは、ちょっと賭けに近いこととも思いますが、唯一無二の製品やサービスが生み出せる可能性があります。

 そのように考えると、ビルゲイツが率いていた頃のマイクロソフトは、ビジョンを先行させた意味のイノベーションを実践していたと思います。一方で、シスコシステムは、R&D&Aと言っていたように(研究開発+AはAcquisition、買収)、外部のイノベーションを積極的に取り込んで成長しました。オープンイノベーションにも積極的です。弊社インフォアは、懐かしのBaanなどを含むERPやアプリケーションを買収して成長し、今は、ビジョンによって再構築をしている段階です。面白いものです。情報が容易に入手できる現在では、意味のイノベーションがますます問われる気がします。それにあわせるように、多くの企業ではなぜ当社なのか? の問いを追求し始めています。

 今はなかなか難しいのですが、私は週に最低2回は本屋さんに行き、双子の孫の絵本から、音楽雑誌、自動車雑誌、ビジネス書、小説まで、本屋さんをグルグル探索して、新しいネタを拾いに行きます。皆さんも、遠い外の世界をみて、一見関係なさそうなことを注意深く観察して、新しい機会をシン結合で作り出してください。そして、企業の中で、その考え方を突き詰めていってください。

 [※1] https://about.yahoo.co.jp/info/blog/20161007/kioicho.html

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この記事の著者

北川裕康(キタガワヒロヤス)

35年以上にわたり B2BのITビジネスにかかわり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Inforなどのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などの要職を歴任。現職は、クラウドERPベンダーのIFSでマーケティングディレクター。...

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