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エンタープライズIT業界Watch:デジタルビジネスへの戦略シフト

イノベーションのモデルから考えるDX推進

ITR 金谷 敏尊 連載:第5回


 DXは、デジタル技術を活用したイノベーションを興し、競争優位性を確立することが本義である。しかし、DX推進には幾多のハードルが存在するのが常だ。市場経済の不確実性の高さや明確な投資効果を示すことの難しさから、デジタルビジネス変革を進めにくいという意見は多い。また、企業によってはイノベーションを促す制度やカルチャーが不十分であり、特に伝統的ビジネスを手掛ける企業や大規模組織ではその傾向が強い。そうした障壁を乗り越えて、デジタルイノベーションを確実に成功させることのできる魔法の杖といったものは、残念ながら存在しない。だが、有効な理論や方法論を取り入れることによって、成功確度を高めることはできる。本稿では、イノベーションに関わる理論や事例を紐解いて類型化を試みる。そのうえで、ボトムアップ型のDXの推進アプローチについて考察する。

DXにおけるイノベーションタイプ

 デジタルイノベーションは、DXの主な狙いである。そのためDXを推進するうえでは、「イノベーション」のコンセプトや歴史的背景についても知っておきたい。最も古典的なイノベーション分類法のひとつは、漸進的イノベーション(incremental innovation)と急進的イノベーション(radical innovation)であろう。前者は、連続的な取り組み(技術アップデートなど)を、後者は非連続的な取り組み(キーテクノロジの刷新など)を指し、2000年頃までの日本の製造業を含むあらゆる産業ではこのモデルを利用してきた。一方、伝統的ビジネスを手掛ける企業によりこれらのイノベーションが進められる傍ら、新たな設計思想のローエンド製品が急速に市場浸透し、やがては主流製品を凌駕するシナリオ、すなわち破壊的イノベーション(disruptive innovation)のコンセプトが普及した(『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン著)。GAFAをはじめとする産業界のトップランナーの多くがディスラプターと呼ばれてきた経緯は、よく知られるところであろう。

 もうひとつの古典的な分類法の代表例は、プロダクトイノベーションプロセスイノベーションである。イノベーションと聞いて、売り物である家電製品のスマート化を想像する担当者もいれば、生産ラインの自動化を想起する担当者もいるだろう。この時、前者は売上増加や新規需要を狙ったプロダクトイノベーション、後者はコスト抑制や品質改善を狙ったプロセスイノベーションと区分できる。さらに網羅的な分類法として、ポジションイノベーションとパラダイムイノベーションを加えた4つのタイプを用いる手法もある(「Managing Innovation」 Joe Tidd他著、John Wily & Sons社、2005年)。日本ではあまり馴染みがないが、これらはマーケティングの4Pになぞらえてイノベーション領域の4Pと呼ばれている。

 DXでは、漸進的イノベーションよりも、革新的ないしは破壊的イノベーションが関心事となりやすい。デジタル技術はその先進性から従来の技術進展の延長線上ではなく、事業活動を真新しいものへ刷新することを期待されるからだ。しかし、それだけに適用先も幅広く、期待される効果も一様ではない。そこで、デジタル技術の適用対象と期待効果の観点からイノベーションタイプを分類してみよう。事業へ直接的に適用すれば「ビジネスモデルの変革」、間接業務へ適用すれば「ビジネス基盤の刷新」につながる。また、期待される経営効果は「収益拡大」と「コスト抑制」に大別できる。現在、世の中のデジタルイノベーション案件の多くはこの4分類のいずれかに当てはまると考えられる。

図1 DXにおけるイノベーションタイプ 著者作成
図1 DXにおけるイノベーションタイプ 著者作成

 「ビジネスプロセス革新」や「新ビジネス創出」は直接的なビジネスモデル変革であり、DXの目標と見なされやすい。これまでの連載で扱ってきたテーマも、IoTなどの技術適用やX-Techによる新興産業などデジタルビジネスに関わるものが多い。一方で、ビジネス基盤の観点でもデジタル化は進んでおり、RPAやコミュニケーションツールの導入は「オペレーション高度化」をもたらし、デジタルマーケティングやSalesTechは「営業改革」につながる。前者はIT部門や現業部門が、後者はセールス/マーケティング部門が主導するケースが多く見られる。このようにDXで扱われるイノベーションは多彩だ。「デジタルイノベーション」と一括りにせず、適用領域と期待効果の観点から峻別し、各々の難易度や優先度を鑑みて推進することが推奨される。

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プロセスイノベーションからプロダクトイノベーションへ

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この記事の著者

金谷 敏尊(カナヤ トシタカ)

株式会社アイ・ティ・アール 取締役/リサーチ統括ディレクター/プリンシパル・アナリスト、英国MBA(経営学修士)、IoTエキスパート(MCPC認定)、BATIC Accountant(国際会計検定)、ITIL Foundation(EXIN)青山学院大学卒業。英国Anglia Ruskin University M...

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