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DXの「Dの痛み」を緩和し成果をあげるWalkMeのデジタルアダプション WalkMe株式会社 代表取締役社長 道下和良氏 講演

  2021/08/19 10:00

 激しく変化する経済環境に適応しようと努力する企業が必死に進めているDX。その一方で、新しく導入したテクノロジーの定着化に悩む企業も少なくない。6月25日に行われたEnterpriseZine Day 2021では、デジタルシステムを使いこなすための「デジタルアダプション」をテーマに、WalkMeの道下社長が事例と共にストレスなくテクノロジーを使いこなす方法を紹介した。

DXを進める過程で直面する2つの痛み

WalkMe株式会社 代表取締役社長 道下和良氏
WalkMe株式会社 代表取締役社長 道下和良氏

 1人のビジネスパーソンとして、あるいは生活者として、皆がデジタルテクノロジーに向き合う時代が到来している。しかし、全てのデジタルの仕組みが使いやすいか、全員がデジタルネイティブのようにテクノロジーを自由自在に使いこなせているかと問われると、そうとは言い切れないのが現状だ。誰もが迷いやストレスなくデジタルテクノロジーを使えるようにしたい。そんな世界を実現することをミッションに、デジタル定着化のためのプラットフォーム製品を提供しているのがWalkMeである。

 2011年にイスラエルで創業したWalkMeは、「組織へのテクノロジー定着化」一筋にビジネスを展開してきた。新しいテクノロジーを導入したはいいが、使われないシステムができてしまうのを防ぎ、より多くの人たちがテクノロジーから価値を引き出せるようにする。それがWalkMeの考える「デジタルアダプション」である。顧客数は全世界で2,000社以上。その中には、Fortune 100企業の過半数が含まれる。得意としているのはSalesforceやSAP製品の定着化であるが、自社開発の基幹情報システムやWebサイトにも使えるという。日本でのビジネス展開は、2019年6月の東京オフィス開設に始まる。以来、国内導入企業は50社を超えた。2021年6月16日には、NASDAQに株式の新規公開も果たしている。

 道下氏は「デジタルアダプションという考え方はイスラエル発ではあるが、日本でも現場のニーズを受けてソリューションを提供し、業務に役立ててもらうことができる『リアルなフェーズ』に入った」と語る。デジタル活用が進むほど、見落としていたこと、あるいはわかっていても目を背けていた本質的な課題がクローズアップされてくる。「DXの痛みには、D(デジタル)に起因するものとX(トランスフォーメーション)に起因するものの2つがある」と道下氏は指摘した。

 「痛みを伴う変革」という言葉が示すように、変革にさらされる人たちは痛みを感じるものだ。痛みがあれば変革のスピードはどうしても遅くなる。最悪の場合は計画自体が頓挫し、それまでの投資が無駄になることもあるだろう。だが、「Dに起因する痛みは、Xに起因するものと比べて緩和できる」と道下氏は主張する。WalkMeは、Dに起因する痛みを緩和することを「デジタルアダプション」と呼び、その解決に焦点を当てた製品を提供していると説明した。

共同調査から分かった習熟度が決めるテクノロジーの定着化

 デジタル活用を進める企業が増える中、ユーザーは具体的にどんな痛みを抱えているか。その実態を明らかにするため、2020年8月から9月にかけてWalkMeと日経BPコンサルティングは共同調査を実施した。そのテーマは、コロナ禍のテレワークである。結果からは、チームコラボレーションやペーパーレスのためのテクノロジー活用が増加しているトレンドが明らかになった。また、全社員がデジタルに慣れているわけではないという仮説の下、デジタル習熟度を3段階に分け、感じているメリットやデメリットについても分析している。その結果、習熟していないと回答した社員ほど、「業務生産性の低下」や「仕事から受けるストレスの増大」を感じている傾向があることもわかった。

 さらに、デジタル活用を推進するため、会社としては様々なサポートを提供しているが、その内容や質に不安や不満の声が上がっている。特に多いのが「マニュアルが分かりにくい」や「相談できる人が周りにいなくて困る」という評価である。マニュアルを丁寧に作ると、自分の知りたい情報を得るのに時間がかかる。また、テレワークの環境ではオフィスにいる時と同じ感覚で周りの人に相談することが難しい。会社としては業務マニュアルやトレーニングの提供、ヘルプデスク対応など、手間のかかるサポートをしているが、現場には満足してもらえていないわけだ。

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 通常、テクノロジー導入直後は混乱があり、一時的に生産性が低下することはあるが、全員の習熟度が高まり、新しい仕組みが現場に定着すれば期待した効果が得られる。しかし初期の定着化への配慮を怠り、状況を放置していると、取り残される人たちも出てくる。これでは本来得られるはずの効果も得られない。SaaSで提供される今のテクノロジーは、昔のERPのように、経理や人事のような一部の人たちだけが使うものではない。全社員が使うものだ。ベストプラクティスを採用するという基本方針は維持するべきだが、テクノロジーに人間が合わせるという考え方を強制すると、取り残される人たちも出てくる。WalkMeのデジタルアダプションは、人間とテクノロジーの間に入り、人間をサポートするソリューションを提供することを狙いとしている。

 「これからはテクノロジーが人間に寄り添う時代になる」というのがWalkMeの考えだ。道下氏は「車にカーナビが搭載される前を思い出してほしい。カーナビを使うようになってなくなったものは、これまで使っていた紙の地図ではない。正しい道順で運転しているか。時間内に目的地に着けるかなどの不安やストレスである」と指摘し、WalkMeが実現を目指す未来もそれと同じと訴えた。

3つの事例から見るWalkMeによる定着化の仕組み

 ではWalkMeはどのような仕組みでユーザーをサポートしているのか。テクノロジー導入後のプロセスは、トレーニングによる習熟、日々の利用、継続的な改善を経て定着へと進む。このプロセスをサポートするため、WalkMeは既存のアプリケーション画面に仮想レイヤーを一枚かぶせ、その上からガイダンスと呼ばれる画面を表示する機能を提供することで、マニュアルなしでのユーザーの操作サポートを実現した。さらに、WalkMeでは、ユーザーの入力補助のためのプロセスオートメーション機能、ユーザーがどこでつまずいているかを明らかにし、改善に役立てるためのログ分析の機能も提供している。

 これまでユーザーに努力を強いていた定着化のプロセスをWalkMeがどのように支援しているのか。道下氏は、3つの国内導入事例を紹介した。

住友商事/NECネッツエスアイ/ソフトバンクの事例

住友商事

 住友商事は、SAP SuccessFactorsの後継者育成計画モジュールの定着化でWalkMeを採用した。後継者育成業務のユーザーと言えば経営幹部であり、同社の場合は50代後半の社員が多くを占める。いずれも精鋭揃いだが、全員がデジタルに明るいわけではない。加えて事業拠点が世界各国に分散しているため、システム導入後の集合研修ができない。忙しくてマニュアルを参照する暇もない。ヘルプデスクに電話をしても、リモートでのサポートには限界がある。WalkMeを導入したことで、同社はマニュアルも説明会もなしでのシステムリリースに成功し、本来の目的である人材育成に専念できるようになった。例えば、同社では毎年7月から10月にかけて人材マネジメント会議の準備をしているが、WalkMeで進捗が可視化されたことで、人事が現場を円滑にサポートできるようになったという。さらにこの成功を受け、SAP Concurの全面的な採用でもWalkMeを利用する計画に発展した。

NECネッツエスアイ

 NECネッツエスアイは、Salesforce Sales Cloudの定着化でWalkMeを利用している。コロナ禍で対面での営業活動が制限を受ける中、1,100名の営業活動を平準化しようと考え、同社は2019年12月にSales Cloudを導入した。その後4カ月で習熟に温度差が出てきていることに気付き、WalkMeを採用する。

 Salesforceを導入すると、経営側はすぐに有益な情報が得られると期待するが、実際は毎日の活動に関するデータが蓄積されなければ得られない。データ入力の早期定着化を課題として認識し、WalkMeの自動化機能やプロセスオートメーション機能を駆使して独自に開発した新機能を提供することで、現場の課題解決を進めている。

 例えば、何かの活動を登録したら、Chatterに転記してグループに共有する機能、データ入力時に二重登録にならないよう確認プロセスを組み込む機能などを提供している。今ではWalkMeが現場の細かい要望を吸収し、Salesforceが提供するベストプラクティスを尊重する使い方が確立された。Sales Cloud導入前後で比較すると、活動登録数、Chatter投稿数が30%増加し、満足度アンケートでも70%が高く評価したという。

ソフトバンク

 ソフトバンクは、ワイモバイル(Y!mobile)の法人サイトの運営でWalkMeを利用している。コロナ禍における営業のデジタル化の一環で、同社はサイトの強化を進めてきたが、入力ミスの多発に悩まされていた。入力に不備があると、再入力を依頼せねばならず、すぐにサービスを使い始めたい顧客を待たせてしまう。営業も顧客の修正サポートをしなくてはならず、双方に負担がかかる。だからと言って、サイト改修をしようとすれば、もっと時間とコストがかかる。そこでWalkMeを導入したところ、半年で申込数が3.4倍増、不備率が57%減という成果を得た。また、おすすめの料金プランを案内するポップアップを表示するようにしたことで、中価格帯プランの契約数も6%増加した。社内のIT部門のサポートを借りずとも、事業部門だけで検討から運用開始までを進めることで自信も得られた。

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 DXの推進では、デジタルが得意ではない人たちが使うことが苦にならない仕組みを提供することが重要になる。D(デジタル)に関する痛みの緩和で、本来DXでやりたいことに専念してもらう。それがWalkMeの提供する価値であることを強調し、道下氏は講演を終えた。

著者プロフィール

  • 冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

     IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。ビジネスとテクノロジーのギャップを埋めることに関心があり、現在はマーケティングテクノロジーを含む新興領域にフォーカスしている。

  • 関口 達朗(セキグチ タツロウ)

    フリーカメラマン 1985年生まれ。 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。大学卒業後、小学館スクウェア写真事業部入社。契約満期後、朝日新聞出版写真部にて 政治家、アーティストなどのポートレートを中心に、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。現在自然を愛するフリーカメラマンとして活動中。

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