富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組んで来た著者の実践に基づくDX連載の第六回。著者は、富士通 デジタルビジネス推進室エグゼクティブディレクターの柴崎辰彦氏。シリーズの第一部となる「DXチャレンジ編」では、「なぜデジタル変革なのか?」その勘所をデジタル推進部門やIT部門のみならず、経営者やリーダーも含めた企業の全社員に向けて実践経験を踏まえて紹介します。
デジタルビジネスに対する概念の拡張
日本でデジタルビジネスが議論されるようになったのは、2014年頃からと記憶しています。当初は、SoR(System of Record)やSoE(System of Engagement)という概念で主に先端テクノロジーでどのようなイノベーションをSoE領域で起こすのかといった観点でデジタルビジネスを語っていました。この概念は既存のビジネスの特徴である“記録”と今後より重要性が増すであろう“ユーザとの関係性”にフォーカスを当てた概念でした。SoEは米国のマーケティングコンサルタント、ジェフリー・ムーアが2011年に提唱し、一気に広まりましたが、産業アナリストであるGartnerでは、SoRやSoEに相当する概念をmode1とmode2と表現していました。そしてSoRやSoEに加え、デジタルビジネスプラットフォームという概念でデジタルビジネス時代のプラットフォームが議論されていました。
ところが2018年頃からデジタル変革(DX)という言葉が頻繁に使われるようになりました。このデジタル変革(DX)は、SoRやSoEをもちろん包含しますが、変革(トランスフォーメーション)という言葉からわかるように単に先端技術を適用したイノベーションだけではなく、企業そのものやビジネス活動などのトランスフォームすなわち、企業内変革も含む概念に拡張したと理解しています。
これまでの私の経験を踏まえ、皆さんにお勧めしたいのは、DXなど新しい概念や考え方が出現してきた時には、自社の論理に引きづられる事なく、客観的な視点で物事を判断する方法を確立しておくべきだと言うことです。筆者の場合は、これまでデジタルビジネスに関するトレンドやその理解について中立的な立場の外部識者の皆さんとの議論をもとに自ら検証し、実践して来ました。
今回は、そのような経験を踏まえ、改めてデジタル変革(DX)の背景や定義について整理しておきたいと思います。
DXが期待される背景
それでは、改めて今なぜデジタル変革(DX)が期待されるのか考えてみたいと思います。
一つは様々なビジネス環境の変化です。市場のグローバル化や国内市場の飽和感は、以前から叫ばれていましたが、今回特徴的なのはディスラプター(破壊者)の台頭です。 これまでのようにモノを作って売る、役務を提供して対価を得るというビジネスではなく、別の方法で価値や体験を届けるという方法が模索されてきているのです。第二次産業革命の時代に馬車が、鉄道や自動車に変わったように、これまでと同じことをしていたのでは、デジタル化した世界では生き残れません。一例ですが、コロナ禍の影響で現在影響を受けている業界はビジネスモデルそのものを見直さなければならない時期に来ているのではないでしょうか。
もう一つは、テクノロジーの進展です。先端テクノロジーについては従来も議論されてきましたが、これまでとの大きな違いは、ITに詳しい情報システム部門だけでなく現場部門などで誰もが手軽にクラウドやAIなどデジタル技術を試行し、活用できるようになって来たということです。

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柴崎 辰彦(シバサキタツヒコ)
香川大学客員教授 富士通株式会社にてネットワーク、マーケティング、システムエンジニア、コンサル等、様々な部門にて“社線変更”を経験。富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組む。CRMビジネスの経験を踏まえ、サービスサイエンスの研究と検証を実践中。コミュニケーション創発サイト「あしたの...
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