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リモート&オフィス併存する「ハイブリッドワーク」をどうマネジメントするか? EYジャパンに訊く

EY 鵜澤 慎一郎氏インタビュー


 ワクチン接種は進むものの、コロナ禍の終息はまだ見えない。今後は、Withコロナの時代となり、コロナ以前には戻らないという意見は根強くあるが、交通機関は混雑を取り戻し、オフィスへの出勤も元に戻っている感もある。オフィスワークとリモートワークが併存するハイブリッドワークの時代を見据え、どのようなマネジメントが必要か? 世界150か国超、約31万人のプロフェッショナルを擁するEY(アーンスト・アンド・ヤング)で日本における組織・人事コンサルティングを統括する鵜澤慎一郎氏にその現況と課題を訊いた。

EY アジアパシフィック ピープル・アドバイザリー・サービス
日本地域代表 鵜澤 慎一郎氏

事業会社およびコンサルティング会社で20年以上の人事変革経験を持ち、専門領域は人事戦略策定、HRトランスフォーメーション、チェンジマネジメント、デジタル人事。グローバルトップコンサルティングファームのHR Transformation 事業責任者やアジアパシフィック7か国のHRコンサルティング推進責任者経験を経て、2017年4月より現職。EYと同時に2020年9月からビジネス・ブレークスルー大学大学院(MBA)客員教授に就任。主な著書に「ワークスタイル変革」(労務行政:共著)。

パンデミックの中での働き方と企業変革

リモートワークと緊急事態宣言の高い連動性

 新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりで、欧米ではロックダウンが常態化し、日本でも非常事態宣言が感染状況に応じて発出された。多くの企業がリモートワークをせざるを得ない状況に追い込まれていた。ワクチン接種は進んでいるが変異株によって感染状況が増減する中、「withコロナ」は当分続き、リモートワークとオフィスワークを併用しながら働く場所や時間の柔軟性を高める「ハイブリッドワーク」の見通しが語られてきている。EYの鵜澤慎一郎氏に新しい働き方に関する世界と日本の潮流について尋ねた。

 「東京都産業労働局が2021年9月3日に発表した都内企業のリモートワーク率の推移によれば、初期24%という状況が2020年3月-4月の初回緊急事態宣言と併せて急上昇し、落ち着いた時期では実施率が下がる。2021年に入ってからも緊急事態宣言の発出とリモートワーク比率は相関性があることがわかります。一方で業種格差以上に大手と中小企業の体力格差がリモートワーク実施率にかなり影響を及ぼすことも多くの調査で分かっています。そのため、総務省や厚生労働省は主に中小企業を対象にした助成金事業や啓発活動を行ってきました。」

[クリックして拡大] 出所:東京都産業労働局:テレワーク実施率調査結果

 鵜澤氏は、リモートワークの課題は中小企業では資金的な負担とITノウハウの欠如であるが、大手企業では労働生産性や人材マネジメントの問題が大きいと指摘する。

働き方改革は前進したか

 EYは今年2月に「コロナ禍から始まる労働環境ハイブリッド時代の勝ち抜き方」という視点で日本を含めた世界調査を実施した。25か国の調査からみえてきたことは、日本企業においては、リモートワークが進んでいるいないにかかわらず、あまり変化が起きていないということだ。世界各国で価値観の変容や企業文化の変容など踏み込んだ動きが起きている。日本では企業が「巣ごもり」をして嵐をやり過ごすような施策しかとってこなかったのではないか。つまり「働き方」を変えるまでの価値観の変容や行動変革に至っていないと鵜澤氏は分析する。

[クリックして拡大]

世界との差が浮き彫りに

 「日本では企業行動が変わったようにも、生産性が上がったとも思えないという従業員からの回答結果が出ています。海外ではロケーション、移住やワーケーションが話題になっていますが、日本ではそれ以前に労働時間の柔軟性を従業員は求めています。これは時間管理に関して相当硬直的な働き方をしてきたことのあらわれともいえるでしょう。」

 日本は働き方改革で海外に1周、2周遅れて、その中で生産性を上げていく待ったなしの環境といえる。「Workforce(生産性)とWorkplace(職場)とWorksmart(技術)の三位一体となった改革に日本企業は取組まなければいけない」と鵜澤氏は語る。

[クリックして拡大]

浮上する「ハイブリッドワーク」という考え方

オフィスに戻れ派とオフィスはいらない派と中間派へ

 リモートワークが定着する中で、オフィスの在り方が大きく問われている。オフィスは目的によって大きく変わるという。従来的な「働く場」(Work as a Place)という考え方をはじめ、「活動の場」(Work as an Activity)であり、場所は関係ないという考え方、人の集まるマグネット(Office as Magnet)やコネクタ(Office as Connector)と位置付け、中間のスタイルをとっている企業もある。伝統的なオフィス信仰を持つ派、オフィスを捨て新しい働き方を求める派、中間派の三派に同業種の中でも企業が分かれている。

[クリックして拡大]

経営の哲学が生みだす異なる人材マネジメントと働き方

 海外では同じハイテク業界においても経営リーダーのスタンスは様々だ。Netflixはオフィスに戻るべきと宣言し、逆にFacebookはオフィスはいらない、グーグルやマイクロフトは中間的なハイブリッドを模索する。日本の場合、ハイテク業界でも都心にオフィスはいらないと極端に振っている企業は一部で、中間に多くの企業が位置している。同じ業種でも人材マネジメントをどうとらえるかという思想、考え方の違いからその差は出てきている。

「この先どうなるのかを話すときには、テクノロジーの力で労働環境の障害を克服したその先、いわば働き方における企業哲学、つまり人材をどのように採用・処遇し、活かしていくかということが各企業に問われていることを強調しています」(鵜澤氏)

 大多数の企業では、いわゆる「ハイブリッドワーク」を採用し、週2~3度のオフィス出社を原則とする代わりにオフィスの面積を3割、4割削減して、その固定費を削減する代わりにトレードオフでリモートワークのインフラ費用や社員の福利厚生費用に当てていくのだろうと鵜澤氏は予測する。

週2,3回出社の「ハイブリッドワーク」の意味

 「クリエイティブな仕事や新規的な発想は対面でないと出ないと考える経営者がいます。たとえばNetflixは常に新しいサービスをゼロイチで作ってきたという自負があり、ゼロイチのようなクリエイティビティは対面の第六感的なコミュニケーションの中でしか生まれないという思想があります。その強い想いからオフィスに戻れ派となり、『ハイブリッドワーク』でも使い分けの思想になっています」と鵜澤氏はオフィス(出社)の意味を語る。

 オフィスは働く場所ではなくてマグネットやコネクタと定義しているのが、いわゆるハイブリッド型企業だが、そこでは、オフィスに出社する日は特別な日常であり、新たな人との出会いがあり、コミュニケーションから何か新しいネットワークが生まれたり、アイデアが生まれたりする<場>という考えだ。

ニューノーマル時代の生産性の課題は古典的な部下マネジメント力

集中作業と共同作業としての<場>の選択

 リモートワークの実現、常態化を働き方の第1ステージだとすれば、これからくる働き方第2ステージは「ハイブリッドワーク」というリモートワークから進化した組み合わせ、オフィスに行くことと一人で働くことの組み合わせが求められる時代になってくるという。「オフィス=クリエイティビティを創発するコミュニケーションの場」、「リモートワーク=成果物を追求する集中作業の場」というような棲み分けだ。

「ただ、このことが前向きに議論されているのは日本では主にハイテク企業や外資系の日本法人が中心です。いわゆる伝統的な製造業、金融業、エネルギー業等が悩んでいるのはハイブリッドの議論に行く前にリモートワークにすると生産性が上がったように思えない、上司が不安になるということです。経営や人事に上がる現場からのリクエストはバーチャルでもオフィスにいた時と同じように「朝礼をやりたい」「サボってないか見張れる監視システムができないか」という監視を強めるリクエストが出てきています」と鵜澤氏。

成果を軸に仕事考えるマネジメントへの転換が必須

 リモートワークが進捗して露わになってきたのは、部下マネジメントの在り方だ。従来のマネジメントは社員を成果で測らず、自分と一緒に長い時間机の前でいたかどうか、姿勢で人を評価してきた。
「最近ジョブ型に人事制度を変えていく企業も多いですが、部下に指示を出すときに作業イメージもアウトプットイメージも持たず、とりあえずやっといてと言って、出てきたものを叩くコミュニケーションの仕方で成果物を作っていく。プロジェクト方式で進めずに分業もせずに職場の中で何かをやってくれという仕事の仕方を変えない限り、バーチャル空間での生産性は出ないと思います」と鵜澤氏は語る。

管理-監視という社員を信用しない限界

 「監視を強める方向では従業員からすると信頼されていない、監視されているから気持ち悪い、PCのカメラで企業側から家の中のものを見られているんじゃないか、常にoffice365で稼働しているアプリケーションの時間を見て何時から何時まで働いているのがモニタリングされているなど、信用されてないという問題になります」と鵜澤氏。

 これでは社員のモチベーションも低下し、生産性はますます下がるだろう。不法なアプリケーションの利用や、仕事と無関係なネットの利用の制限は現在のテクノロジーで解決できる。マネジメントの方向を変えないといけないと鵜澤氏は強調する。

「ハイブリッドワーク」時代の対策を考える

日本型のマネジメントスタイルは通用しない

 「たとえば仕事の指示ですが、外資系企業やハイテク系企業では、今の自分が作る資料のイメージは1枚目が背景と目的、2枚目にサマリー、3枚目にプロジェクトアプローチがあってというように出します。日本企業の上司は「1週間後に役員会があるから、稟議をあげるために資料を作っておいて」となります。その時点で上司にはイメージがない。部下がさまざまな情報を集めて上司と頻繁に職場で話していく過程で上司も気づいてこの方向で行こうと決まる。このスタイルがリモートではできなくなるので、上司の指示の仕方、マネジメントスキルをかなりあげないといけない。その力が問われています」と鵜澤氏は例を挙げて説明する。

 上司と部下で仕事の指示を伝達するときは、なぜやるのか、何をどれだけ、いつまでに期待していることなどを伝えるというオーソドックスなWhy-What-Howのマネジメントスキルを徹底することが重要だという。

IT部門から標準化を徹底する

 働き方に関わるアプリケーションなどのガイドラインを設けて、IT部門(情報システム部門)が承認プロセスに入ることも必須ではないかと鵜澤氏は述べる。

「各部門が別々にリモートワーク関連のアプリ契約を進めて使うケースが散見される。これではセキュリティリスクだけでなくコスト的な抑止、コントロールができないなどの問題がある。自社の推奨アプリを決めセキュリティ認証を取ってから購入するなどIT部門側でガイドラインを作る必要があります」と鵜澤氏。デジタルツールの標準化をIT部門が率先することが重要だ。

オフィス出社の再定義と上司のマネジメント行動の再点検

 ハイブリッドワークの起点はオフィスに集まる=特別な目的でオフィスに来ると再定義すること。どんな業種、職種でも営業、開発、バックオフィスでもハイブリッドワークができるインフラと環境は技術的にそろえることができる時代だ。働き方をかえて、社員モチベーションをアップして、生産性を向上できるような上司のマネジメント力に関する再点検がなによりも重要だ。その先に企業にとって大事な価値観や人材マネジメント方針にそった新しい働き方を全社的に作り出せれば、オフィスコストを低減しつつ、生産性も向上させる「ハイブリッドワーク」の実現に向かうのではないだろうか。

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この記事の著者

山本信行(ヤマモトノブユキ)

株式会社Little Wing代表

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