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「ハイブリッドワーク」の時代にジョブ型の人材マネジメントは定着するか? EYジャパンに訊く EY ストラテジー・アンド・コンサルティング 野村 有司氏 インタビュー

  2021/10/07 10:00

 コロナ禍により多くの企業がリモートワークをせざるを得ない状況に追い込まれて以降、在宅勤務やサテライトオフィスの活用、オフィスの縮小など様々な働き方と企業変化が一気に進捗している。「ニューノーマル時代」が謳われ、コロナ前には戻らないという意見も強い。アフターコロナを見据え、人事制度の見直しにも拍車がかかる。EY ストラテジー・アンド・コンサルティングの野村有司氏にジョブ型人材マネジメントの実際と課題を訊いた。

日本企業の課題とジョブ型人事制度

野村 有司 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・アドバイザリー・サービス パートナー

 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・アドバイザリー・サービス パートナー
野村 有司 氏

 ジョブ型人事制度が昨今語られることが多い。日本だけで通用するガラパゴス的な人事制度が、グローバル化の流れで大きく見直されている。ジョブ型を進める上でグローバル共通の人事データベースや制度を構築することが、経営戦略における人材マネジメントで重要になってきているという。

 「今まで日本企業は人と仕事では、人にフォーカスした人材マネジメントを行ってきました。伝統的な職能資格制度、年功序列型の賃金制度、終身雇用などすべて個々人に対応した制度となっています。ジョブ型とは仕事に注目し、会社はこれだけの仕事を用意している、事業戦略を遂行するためにはこういう業務があるということを定義して、そこに雇用関係にある人々を当てはめていく。足りなければ新規で採用したり、アウトソーシングを使ったりする。こうした考え方に大きくシフトしています」と野村有司氏はジョブ型人事制度の概要を語る。

 コロナ禍の状況はジョブ型人材マネジメントを進める契機、ポイントとなった。企業として担保したいことは、従業員に仕事をしてもらえるのか、成果を出してもらえるのか。そして、それらの連なりが業績につながるのかということだ。

 「仕事が全うできるかどうかを人材マネジメントの基軸に据えて、リモートワークが進んだので、どの場所で、どういう形態でやるとよいのかといったプロセス自体も仕事から考えるというという大きな転換の中にあります」(野村氏)

 「ハイブリッドワーク」だからジョブ型を進めるというより、ジョブ型を推進すべきという中で、新型コロナウィルス感染症の感染拡大が進み、やはり働き方は多様だったということを改めて気づかされ、それをベースに仕事を定義しなおし、人材マネジメントの基軸にする企業が増えているという。

 仕事を基軸に達成すればよいとなると、労働時間や勤務場所は柔軟化、緩和することになる。時間が緩和されるので、副業や兼業をみとめる事例が伝統的な産業、企業でも増えてきているが、副業、兼業によって労働時間が膨らんでしまうことや、機密情報の漏えいなどリスクがあり、働き方だけではない課題も出てきているのが今の状況だ。

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ジョブ型の定義と成果主義との違い

 ジョブ型においては、いわゆる「ジョブディスクリプション」、つまり職務定義書がキーワードとなる。「そこには期待される成果というものが定義されます。仕事の内容自体は必ずしも詳細にわたる記述がなされるわけではありませんが、求められるアウトプット、売上達成、新規開拓、等々ありますが、仕事の方法やプロセスの構築といったことも仕事として定義されます」と野村氏は説明する。

 仕事の遂行能力を含めて、「仕事」と定義していることが多い。仕事を成果だけではなく広い概念として定義している。また年度の仕事は期待水準やマイルストーンを年ごとの目標設定で決めることになる。

 「最近ではOKR(Objectives and Key Results)という評価手法がトレンドとなっています。目標を達成するための水準となる成果(Key Result)が指標となります。会社全体の成果目標が仕事ベースでカスケードされて、『この部署はこういう機能を果たすので、あなたはこの分野を担当してください。そのために必要な行動やプロセスはこれ』というかたちで提示されます」(野村氏)

 定義を人から始めるのではなく、会社から「これが必要で、この仕事があり、その目標値は全社戦略から考えるとこの水準になる」と決められるように変わってきているのだ。

  人をベースに、実行した業務のクオリティや成果の良し悪しに応じて報酬を決めていく評価制度が成果主義とすれば、ジョブ型はその方向とは逆のものといえるだろう。

リモートワーク定着で変わる企業の対応

 経済団体のアンケート等では、リモートワークでは「進捗管理や進め方が難しい」「人事評価が難しい」という声が多いという。従来、仕事のアウトプットより過程を評価しようとしてきたが、成果を定義していく方向でないと評価ができないというように認識が変わってきていると考えられる。

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 「今まで成果を評価できていなかったのらなら、まずは成果を定義することからはじめる必要があります。また、進捗や勤務態度の可視化については、“がんばっている”といったあいまいな基準のままでは、リモートワークにおいて評価しづらいため、外していく、外れていくでしょう。一方で行動については、オフィスにおける成功パターンから変化してきており、リモートワークで成果を出している場合どういう行動をしているか、たとえばチャットで部下と連絡を取り合っている、オンラインだからこそ、定期的にクライアントとフェイストゥフェイスのミーティングを開いているなどの成功要因を新しく収集して、リモートワークで成果を出しやすいパターンやペルソナをつくっていく必要があります。ニューノーマルにおいてそういった成功パターンが定着するのであれば、評価に取り入れていくべきです」と野村氏は成果認識の変化を語る。

 従来、評価はリアル世界の行動特性に着目していたが、同様にオンラインでの行動特性を見る必要があるという。トークスクリプトや必要な資料を画面に投影しておく等、対面では制限されていた方法などを使うことで、オンラインで伝達力が向上する人もいる。

  「勝ちパターンが変わってきている状況を認め、評価する、また評価自体がハイブリッドワークによって多層化していくことがあります。もっと多様な評価の在り方になれば、良い行動、のぞまれる行動も変化していくでしょう」と野村氏は評価が行動の変化を促すと語る。

実際の改革には深掘りした議論が必須となる

 ジョブ型の人材マネジメントを現行の人事制度を改革、移行するには、成果や評価の定義だけではなく、多様で多岐にわたる課題に対して議論を深めていく必要があると野村氏は強調する。

 「リアルでは成果目標以外に努力や頑張りなどの情意評価があります。ムードメーキングなどの定性的な評価も考えられます。勤務ルールにしても自己申告とテクノロジーを使って検証される実労働時間(時間計測テクノロジー)との組み合わせを落としどころとするのが妥当ではないか。従業員の健康管理やウェルビーイングという観点から労務管理は必要ですが、企業側のハイブリッド志向と従業員側の意思は必ずしも完全には一致しません。あるべきハイブリッドワークを考えて、オンライン、オフライン両方でどう成果を出すのか、どう強みを発揮するのかという議論をして、また企業としては制度を作る必要があります」と野村氏は改革の着地について語る。

 人事制度としては成果を定義するだけでは不十分で、新たな勝ちパターンに応じたプロセスや求められる行動などを組み入れなければならない。ただ新たな勝ちパターンがどういうものになるかはまだ確定的なものはないという。

 現在の状況は、ジョブ型における評価のための指標について壮大な実験をしているといえる。今後、「ハイブリッドワーク」を前提とした組織人事戦略が企業の活性化を促進し、差別化につながっていくといえるだろう。



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