DXは買ってくることはできない
田口氏は前職のオープンハウスで執行役員としてCIO/CISOを務め、5年で売上を5倍以上に伸ばした同社のIT戦略を支えた。「足りないものをすべて考えて欲しい」という社長の声を受け、当時田口氏はIT戦略を3フェーズで敷いたという。デジタイゼーション、デジタライゼーション、そしてデジタルトランスフォーメーションだ。
オープンハウスでの経験を含め、これまでのキャリアを活かし田口氏は2021年8月にdigilを創業。digilでは経営コンサル、戦略コンサルを含め、一貫したDXやIT内製化の支援を展開している。その田口氏がDXを始めたい企業にアドバイスすることは3つ。1つ目は、「DXを一旦は忘れる。それでもDXというのであれば、トップダウンが必要」。2つ目は、「まず企業内に散財するあらゆる情報を集める」。3つ目が「走りながら進めるしかない」だ。
その上で、「時間が最も貴重。まず一歩踏み出すべき」という。すぐにできることとして、「既存システム、個人が管理しているExcelなどの情報をまずはかき集めることが大事なポイント」と田口氏は述べた。
DXやITはあくまでも手段、重要なのはビジネスだ。そのため「徹底した現場主義」で進めることが大切だという。「DX/IT部門こそ、現場やビジネスを知っていなければならない」として、ITは営業など現場とのコミュニケーションを働きかけ、現場はITをスケープゴートにするのではなく仲間として協力するような関係を提案する。「買ってくることはできないのがDX」と田口氏、「(DXのための)組織を作っても変わらない。自分達がレールを引いていくことを大切にやらなければ」と続ける。
これにより、一過性ではなく持続的なDX、「ダイナミックケーパビリティ」の実現に近づくと田口氏はアドバイスする。
EAをアジャイル化、だがデータアーキテクチャはぶらさない
オープンハウスで田口氏は、EA(エンタープライズアーキテクチャ)そのものをウォーターフォールからアジャイルに変えつつ、その中のDA(データアーキテクチャ)はぶらさないことで、DXを進めた。
具体的には、DAの土台を構築し、疎結合のAPI連携を行うことで個別システム群とつなぐという形だ。ポイントは、「現場が、自分たちの個別最適を作りたがることを受け入れて進める」だ。このアーキテクチャなら、土台となるDAですべて吸収できる。
実際にオープンハウスでこれを実践した後の気づきとして田口氏は、「業務とDAを掌握するような組織が必要かもしれない」と述べた。
平行して、データ側でも取り組みを進めた。「アプローチとして、社内に散財するデータはすべて財産と考える。整形されていないデータも含めて集め、見える化することで次の打ち手が見えてくる」という。
サイロなシステム構築を前提に、データを寄せていくというのが田口氏のアドバイスだ。それを可能にするのが、3層のアーキテクチャだ。第一層のデータ蓄積と分類する層(データレイク、DWH)、第二層のデータ連携する層(API層)、第三層のアプリケーション/フロント層(UI/UX)、そして第ゼロ層となるネットワークとハードウェア(マルチクラウドとオンプレミスのハイブリッド)がある。
「以前のようなシングルソースでデータ基盤構築を考える必要はない。ありとあらゆるデータソースから、マルチソースでデータを集めるための技術が揃っている」と田口氏はいう。
その後、同じ言葉でも定義が異なるデータがあるなどのことが見えてくれば、整理していく。「色々なことが起こる可能性があるので、事前の説明、現場キーパーソンの適正把握など期待値をコントロールしておくことも必要」と田口氏。
走りながらデータ項目を定義していくことになるが、ここでは「自分たちで定義すること」が重要だという。パッケージやサービスを持ってきたとしてもデータを蓄積して磨いていく必要があるが、「必要な経営指標の数値から着手すれば十分」ともいう。
加えて、データの入力業務についても可能な限り減らすべきと田口氏は述べる。既存のシステムがブラウザのみしか対応していないなどの場合は、ITベンダーと交渉してデータベースとの連携を試みることを推奨した。
また、既成概念を持たずにアイデアを抽出するなど、「ゼロベースで最新技術の活用を前提に検討する」ことも大切だという。既存の業務自体をなくすためにどうするかまで踏み込んだり、未来の働き方を想像してみることも有効だとした。システム化にあたっては、財務諸表にインパクトがある順番で優先順位を決定すべきという。