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サステナビリティ経営のための「非財務情報開示」とは SAPに聞く

SAPジャパン 大我猛氏インタビュー

 認知が高まるESG(環境、社会、企業統治)投資に関連し、非財務情報をまとめた統合報告書を発行する上場企業が増えている。最近では、2021年6月のコーポレート・ガバナンスコードの改定、2022年4月からの東証の市場区分再編の大きな動きがあった。さらに、人への投資を促す狙いがあるとして、岸田首相も非財務情報の開示ルール策定に大きな意欲を示している。この分野に先行するのが欧州企業である。自社での実践を通じてどんな知見を得たのか。先行企業の1社、SAPにこれまでの歩みと今後の展望を訊いた。

非財務情報開示の何が難しいのか

 日本の上場企業にとって「非財務情報の開示」は大きなテーマである。しかし、手段と目的を間違えてはならない。開示はあくまでも手段であり、取り組まなくてはならないのは変革である。SAPでは、その取り組みを2009年から始めている。発端は前年の2008年のリーマンショックだ。事業環境が厳しくなる中、保守費の値上げや人員削減で乗り切ろうとしたが、顧客満足度も従業員満足度も下がる苦境に立たされた。その反省から、経営を根本から変えなければならないと考えたSAPは、中長期的なゴールをサステナビリティ経営に据え、少しずつできることを進め、今では外部機関から高い評価を得ている。

 SAPのアプローチは、サステナビリティ経営を志す顧客を支援する「Enabler」と、自社での実践を通して模範を示す「Exemplar」の2つを同時並行で進めるものだ。財務情報にしろ、非財務情報にしろ、見えるようにならなければ改善しようがない。大我氏の説明によれば、SAPは「非財務情報の開示」「非財務情報の定量化」「標準的な方法を用いての非財務情報の金額換算」と3つのステップで取り組みを進めてきたという(図1)。

図1:3段階で取り組んできたSAPのサステナビリティ経営 出典:SAPジャパン

図1:3段階で取り組んできたSAPのサステナビリティ経営 出典:SAPジャパン [画像クリックで拡大]

 ステップ1で取り組んだのは、統合報告書で非財務指標の結果を開示することだ。始まりは2012年からとかなり早い。当初は株主も困惑した。せっかくの成果が株主にとってどれだけ良いことかをうまく説明できていなかったためだ。そこで2014年から始めたステップ2で、取り組み成果を金額換算して示すことにした。

 「女性管理職比率が20%」と統合報告書で発表しても、それが利益にどのぐらい貢献するかがわからなければ、株主は納得できない。SAPは非財務指標が1ポイント改善した場合、どの程度営業利益が増えるのかを明らかにしようと、データ分析を実施した。その結果、女性管理職比率の場合は、「ビジネスヘルスカルチャー指数」と呼ぶSAP独自の指標が1ポイント改善すると、117億〜130億円の営業利益の増大に貢献するとわかった。この他、SAPは「会社への愛着心」「社員定着率」「温暖化ガス排出量」に関しても、同様に営業利益へのインパクト分析を行い、改善に取り組むことにした。

 この取り組みは株主に対してのコミュニケーションに焦点を当てているが、他のステークホルダーについても同じことが言える。株主が「それをやって、株価が上がるのか?」と考えるのであれば、事業部門も「結局は売上と利益で判断するんですよね?」と考える。経営トップが合理的な投資の意思決定を行うには、共通の判断基準が必要になる。それが「インパクト」、すなわち金額換算を行う意味である。

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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