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「ユーザーの当たり前は、ベンダーの当たり前ではない」無意識にやりがちなシステム開発における失敗事例

 本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げる事例は、ユーザーのシステム開発への無関心が起こした事件です。人によっては「レベルの低い話」と受け取られるかもしれませんが、問題の本質は「自分の当たり前と他人の当たり前は違う」にありました。「自分は大丈夫」と思っているあなた、ぜひご一読ください。

なぜ、こんなことで訴えるのか!?

 私は約10年間、東京地方裁判所や東京高等裁判所などで、IT訴訟の解決のお手伝い(民事調停委員や専門委員)を務めていました。数多くの訴訟を見てきましたが、訴訟の中には、なぜこんなことで訴えるのかわからない裁判もあります。

 わずか数万円の賠償を求める裁判やどう見ても勝ち目のない裁判を、こちらから提起するものなど形は様々ですが、今回取り上げる裁判も、その一つです。

 簡単に言えば、ユーザー側があまりにシステム開発のことに無関心であるが故に、起きてしまった裁判です。要件定義や受け入れテスト中に気づいていれば、すぐにでも修正できる問題を、放置したままにしました。実際に業務で使って、初めてクリティカルな問題に気づいたのです。

 この連載の読者の皆さんからすると、少しレベルの低いお話かもしれませんが、それなりに参考になる部分もあると思います。ぜひ“他山の石”として、ご覧ください。それでは、はじめましょう。

使ってみて初めて気づいた計算式の誤り

(東京地方裁判所 令和3年3月1日判決より)

ある歯科医師が、歯科用カルテ・レセプトシステム(歯科医がカルテを作成すると共に、その診療報酬を計算し請求するためのシステム)の構築をソフトウェアベンダーに依頼し、ソフトウェアベンダーは自身が保有するパッケージソフトウェアを導入、設定等行うことでこのシステムを完成させた。

ところが納入されたソフトウェアには歯科医の想定するものとは異なる計算や表示がなされる個所が多数存在したとして既に支払ったソフトウェアライセンス費用等を損害とする賠償を求めたが、ソフトウェアベンダーは歯科医のいう機能はいずれも仕様としては示されていないか、ソフトウェアの設定を変更することで容易に使えるようになるものだとして損害賠償には応じず、裁判となった。

 補足として、歯科医が述べているソフトウェアの欠陥を見てみることにしましょう。

  • ア.本来、保険請求の点数加算が認められない失活歯(神経を取った歯)の処置にも算定可能という誤ったメッセージが表示され、「算定しない」を選択してもエラーとなる。
  • イ.保険適応可能なブリッジ処置が保険適応外と表示される。
  • ウ.月末に抜歯をしても,次月なるとに残っている歯として表示される。
  • エ.欠損した歯を正常な歯として誤って入力しても見抜けない。

 これに対してベンダーは以下のように反論しています。

次のページ
「ユーザー側の確認不足。損害賠償に当たらない」ベンダーの反論

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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