Adobe Summit 2022の今年の全セッション数は295ある。今回も目玉セッションの多くはアーカイブで公開されている。カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を中心に、数多くのセッションがあり、主要なものは日本語での字幕もある。しかし、グローバル企業の事例などは、「日本のITの現場から見ると、3年から5年の先をいっている」(橋本氏)ため、企業のIT担当者にとっては、ややイメージが摑みづらいかもしれない。まずはキーノートや事例のセッションを見るための、安西氏、橋本氏によるガイダンス動画「Insights from Adobe Summit」が参考になる。以下にその内容のダイジェストとなる。
拡張されたパーソナライズの考え方
アドビがAdobe Analyticsの分析に基づき公開している「Adobe Digital Economy Index」のデータによると、2022年に米国の消費者がオンラインで費やした金額は、1兆ドルにおよびEコマースの新記録となった。日本国内でも、ECの取引は、全体の21.7%(経済産業省)、2021年のインターネット広告費は4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)の合計を超える結果になった(電通調査)。
さらにコロナ禍が一定の落ち着きを見せた後でも、オンラインでの購入を続け、オンラインと店舗を組み合わせて購入するという顧客行動の変化がある。米国では、オンライン注文した商品を、店舗の駐車場で受け取るカーブサイトピックアップが近年急速に普及したことが、その一例だ。
こうしたデジタルが中心となる経済の中では、顧客、消費者を「層」としてではなく一人ひとりの個人として理解する「パーソナライズ」が重要となることは、これまでも語られてきた。しかし、パーソナライズとは何か、どのように実現するのかについては、漠然としか語られてこなかった。さらに近年では、プライバシー重視の流れもあり、パーソナライズの考えを再検討する必要も生じた。そこで、アドビは「Personalization at scale」(拡張されたパーソナライズ)というトピックを提示した。
まずパーソナライズとは、「関係性の高いコンテンツ」(顧客ごとに必要としている情報を想定し情報に緩急を付けること)、そして「手間を減らす」(既に分かっている手続きや手順などをより簡便にできるようにする)ことだ。
さらに今後、必要となるのは顧客の行動のタイミングにすぐに対応すること(リアルタイム)、オンラインや店舗、スマホなどのデバイスを跨いでも⼀貫したコミュニケーションが継続すること(一貫性)、顧客の属性だけでなく興味や背景を理解すること(興味)、顧客のプライバシーに配慮したコミュニケーション(プライバシー)などの要件だ。
今回のキーノートでは、CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏、アニール・チャクラバーシー氏のキーノートでは、このポイントを踏まえて視聴すると理解が深まるだろう。
事例セッションを読み解く鍵は「4R」
もうひとつ、今回のAdobe Summitで披露された数多くのグローバルな先進企業の事例を理解するヒントが、顧客体験のためのマーケティングにおける「4R」だ。
キーノートでナラヤン氏が語った「4R」とは、「Right Contents to the (正しいコンテンツ)Right Customer (正しいヒト)at Right Timing(正しいタイミング)through Right Channel(正しいチャネル)」のことだが、興味深いのは、「Channel」と「Vehicle」と言い換えている点だ。
これまで、企業と顧客との接点は「チャネル」と称していたが、デジタルの広告やWebだけではなく、実店舗やスマートデバイスなどすべて包括した、顧客にコンテンツを届けていくための「Vehicle=乗り物」とアドビは捉えているようだ。
これまでのデジタル広告などで語られたパーソナライゼーションは、ユーザーのクッキーなどの識別情報によって個別に設定するものだった。Webやモバイル広告ごとに個別に設定されていたため、それぞれが分断しており、プライバシーへの配慮も不足していた。これからは、物理世界とデジタルをまたぐ大規模なものとなり、一貫性を持つものとなり、顧客行動や高度な予測によるリアルタイムに変化し、かつプライバシーを重視したものとなる。これがアドビの提唱する「Personalization 2.0」となる。