GAFAMに先行される「プライバシーテック」 LayerX 中村龍矢氏に訊く、日本での普及に向けた鍵
「Anonify」提供で変える、データと企業の関わり方

DXなどの観点から、データ活用に注目が集まっている。データからはさまざまな知見を得ることができ、データの提供そのものが新たな事業に発展する可能性もあるだろう。一方、十分なプライバシー対策を行わないと、データから個人が識別・特定されるといった問題も指摘されている。今回、個人情報保護とデータ利活用の両立を実現する最先端のプライバシー保護技術「Anonify」の正式提供を発表したLayerXの執行役員 兼 PrivacyTech事業部長である中村龍矢氏にお話をうかがった。
「Anonify」を正式提供へ 既存事業との関連性とは
LayerXは、グノシー(Gunosy)のブロックチェーンに関する事業部が分社化されたことにより、2018年に誕生した会社だ。現在、LayerXの執行役員 兼 PrivacyTech事業部長を務める中村龍矢氏は、「個人的には機械学習によるデータ分析にも可能性を感じていましたが、十分に普及していると感じていたため、ブロックチェーンの事業に参画したいと申し出ました。その事業部がLayerXという子会社となり、現在は独立しているという経緯です」と振り返る。

ブロックチェーンはグローバル規模で市場拡大が進んでいる領域。サービス展開にあたって“世界的なプレゼンスの向上”が欠かせず、研究チームが必要との考えに至ったという。そのため、ベンチャー企業では珍しく、創業時から研究チームが立ち上がっている。中村氏の研究テーマは主に「Ethereum(イーサリアム)」であり、いかに安全性や信用度を高めるかなどを研究していたという。
実際これまでにも、Ethereumプロトコルの脆弱性を複数発見し、仕様策定に貢献。Ethereum Foundationの助成金(Grants)を日本拠点のチームで初めて獲得している。また、Ethereumに関する東京工業大学との共同研究において、電子情報通信学会の「2020年度 インターネットアーキテクチャ研究賞(最優秀賞)」を受賞したり、2020年度のIPA(情報処理推進機構)「未踏スーパークリエータ」(PDF)に認定されたりなど、多くの実績を残す。
なお、現在LayerXには「SaaS事業」「Fintech事業」「PrivacyTech事業」という、3つの事業部が存在している。「これらの事業部に共通しているのは、ブロックチェーン事業で発見した、お客様の課題がベースにあることです。たとえば、企業間取引や受発注の際に手作業やアナログ業務が多いというお客様の声が多かったことから『そもそもブロックチェーンで企業のサプライチェーンをつないでいくことは本当に正しいのか』という観点からゼロベースで検討した結果、今の『バクラク請求書』の機能開発につながっています」(中村氏)

Fintech事業においても「証券発行などのプロセスをブロックチェーンでできないか」というインスピレーションを基に、三井物産などとのジョイントベンチャー「三井物産デジタル・アセットマネジメント」を設立[※1]。新しく、デジタルネイティブなアセットマネジメント会社を作ることに取り組んでいる。PrivacyTech事業でも同様に「データをうまく企業間で連携できないか」という声を聞いたことから、課題解決に取り組んでいるという。
そして、これら各事業に欠かせないのが“プライバシー保護”であるとし、最先端のプライバシー技術での解決を目指して、6月21日に「Anonify」の正式提供をアナウンス[※2]した。
[※1] 「LayerXが三井物産、SMBC日興証券、三井住友信託銀行と合同で新会社を設立。ブロックチェーン技術を活用した次世代アセットマネジメント事業で協業」(PR TIMESより)
[※2] 「LayerX、最先端のプライバシー保護技術Anonify(アノニファイ)によるパーソナルデータ活用ソリューションの正式提供を開始」(Anonifyウェブサイトより)
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吉澤 亨史(ヨシザワ コウジ)
元自動車整備士。整備工場やガソリンスタンド所長などを経て、1996年にフリーランスライターとして独立。以後、雑誌やWebを中心に執筆活動を行う。パソコン、周辺機器、ソフトウェア、携帯電話、セキュリティ、エンタープライズ系など幅広い分野に対応。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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