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北川裕康のエンタープライズIT意見帳

B2Bの営業たるもの、恋愛上手になれ:マーケティング心理モデル活用のススメ


 B2B営業の極意は、結婚と同じく「出口クライテリア」を意識して「心理の変化」を踏まえた作戦を展開することです。マイクロソフト時代の対オープンソースキャンペーンでの経験を紹介します。

B2B営業は恋愛のプロセスと同じ

 私の長いB2B経験の中で出会った何人かの営業の人は、複雑な製品をデモ実施やプロトタイプ作成も無しで、売り切るという凄い能力を持っていました。一方多くの営業は、ついつい案件の最初の段階で、デモや製品説明会を実施しがちです。マーケティング担当者も、複雑な製品の場合は、最初から機能を全面に押したキャンペーンを実施することがしばしばあります。Webサイトも大体そういう作りになっていたりします。

 これは言ってみれば、「出会った最初の段階で、自分をすべてさらけ出して、好きな人に結婚してくださいと頼む」ことと同じです。最近では「交際ゼロ日婚」というものあるようですが、通常は結婚するには、「出会う、恋愛する、家族を巻き込む、婚約する」など、多くの過程を経ていきますよね。また、数多くのライバルから自社を選んでもらう必要があります。B2Bの営業やマーティングが、見込み顧客に買っていただくということは、結婚に近いのです。それなりのステップを踏むと同時に、心理作戦が必要です。顧客の方から、最初から結婚してほしいと言われたら楽ですが、そんなことはたまにしかありません。昔、DECに勤めていた頃、「電話の前にいれば、数億円のVAX-11/780の契約が取れる」と豪語した営業がいました。今では、そのような羨ましいモテモテ営業はいないでしょう。

 いきなり製品の詳細をさらけ出してしまうことの問題は何でしょうか? 以前の記事「心理学をビジネスで使うための5つの考え方」でも書きましたが、ビジネスにも、アンカリング効果というものがあります。アンカリング効果とは、「カルガモの赤ちゃんが、最初に目にしたものを親と思うように、ヒトも最初に見た数字や条件が、その後の考えに影響を及ぼす」という効果です。船の筏=アンカーが降りてしまっているような心理からこの名前が来ています。一種の「刷り込み効果」です。最初に製品を見せると、その会社(=ベンダー)は、自社(=見込み顧客)の問題を解決したり、アドバイスをくれたりするベンダーでなく、単なる製品供給者だと、心理的に位置づけされてしまいます。また、そうなる、見込み顧客の担当も、製品担当レベルの人がアサインされ、意思決定者との距離が生まれてしまうのです。そして、他社との製品比較や価格競争に巻き込まれてしまいます。アンカリング効果の怖いところは、最後まで、その認識が変わらないというところです。つまり「最初が大事」なのです。恋愛であれば、最初の印象が最悪でも付き合っているうちに変わるということはあります。1対1で接触回数の多い場合に成せる業かもしれません。

 恋愛にステップがあるように、B2Bの世界にも出会いからのステップがあります。結婚はすなわち「製品やサービスの採用」であり、それ以前は友達関係や恋愛で、結婚生活はその後の「利用における関係」です。不幸にして、恋愛が破綻する、離婚するということもありません。マーケティング、営業の活動を複数のステージで区切り、次のステージに行くための「出口クライテリア」を定義することです。「出口クライテリア」とは、これそれの条件を満たせば次のステージとして認識するということです。たとえば、マーケティングから営業では、「BANT条件 ── Budget(予算)、Authority(決済権)、Needs(ニーズ・需要)、Time frame(導入時期)」の3つを満たせば、営業のステージの最初に行けるなどです。ベンダーから見ると、単なる案件の進捗ですが、顧客視点で見ることが大事なのです。各ステージは顧客のベンダーに対する認知の状態だといえます。

 マーケティングの世界では、AIDMAAIDASと言った、消費者の購買決定プロセスを説明するモデルがあります。AIDMAは、見込み顧客は、その製品の存在を知り(Attention)、興味をもち(Interest)、欲しいと思い(Desire)、記憶して(Memory)、最終的に購買行動に至る(Action)という購買決定プロセスを経ます。こうした購買決定プロセスは、心理の変化のプロセスともいえます。購買行動は、実施は心理の変化であり、B2Bでも同じです。ただし、B2Bでは複数人が意思決定に関わるので、代表的な役割の人それぞれの心理の変化を見る必要があり、かなり複雑です。AIDASは、最後にS(Shared)が入った、ソーシャルメディア時代に適した考え方です。

 ではどのように案件の採用まで成就するのでしょうか。どのようなモデルを使うにしても、「採用される」という結婚までのステップを区切り(ただ、結婚後の方も大事なのですが)、それぞれの心理状態を定義します。例えば、Attentionというのは、自社にとって製品やサービスはどういうものなのかを考えることです。B2Bでは「なかなか面白そうな会社で、何か自社のビジネスに貢献してくれそうだなと思うこと」と定義します。Interestでは、「この会社は、過去の実績をみて、自社のビジネス課題を解決してくれそうだと考え始める」と定義します。これを案件の採用までのステップすべてで定義していくのです。

 そして、次にそれぞれのステップに行くために、顧客にどのような行動をしてもらうか、もらいたいか、を記述します。例えば、AttentionからInterestでは、その企業のだれかが当社のWebサイト覗いたとか、業界の展示会でブースに来たなどです。そして、行動が完了したときの状態である「出口クライテリア」を決めます。例えば「3名の新しいコンタクト情報を獲得した」などです。これも、すべてのステップで作成します。

 こうして、案件獲得、購買行動までの一大作戦テンプレートが、出来上がるわけです。このテンプレートは、営業、マーケティング、営業サポート全員の共通言語として利用でき、次に何をなすべきかの理解が深まります。それに合わせて案件を作るまでのマーケティング活動や、案件ができた後の営業活動の作戦を立てるのです。なお、マーケティング活動は、明確に特定顧客を狙うABM(Account Based Marketing)と、もう少しボヤっとしたターゲットに対するアウトバンドのキャンペーンがあります。

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マイクロソフト時代に対オープンソースで展開したGet The Factsキャンペーン

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この記事の著者

北川裕康(キタガワヒロヤス)

35年以上にわたり B2BのITビジネスにかかわり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Inforなどのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などの要職を歴任。現職は、クラウドERPベンダーのIFSでマーケティングディレクター。...

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