「ラベリング/アノテーション」のプラットフォームを提供する
AIをビジネスに取り入れる動きは活発だ。自社の製品にAIを組み込み、新たなビジネスにつなげることや、AIによるデータの分析・活用によって業務の変革をめざすことまで、さまざまな取組みが行われている。
しかし、こうしたAIのプロジェクトが必ずしもうまくいくわけではない。PoC(概念実証)の段階での終了や、導入や開発の遅延といった例も少なくない。こうした背景には、AIの開発に必要なデータの問題がある。機械学習のプロジェクトにとっては、AIモデルに学習させるデータが適切に「ラベル付け」されている必要がある。こうした「ラベリング/アノテーション作業」は、これまで経験やノウハウを持つ作業者による膨大な時間と労力が必要とされ、その精度にばらつきが出てしまうことも問題だった。
ラベルボックス(Labelbox)は、この「ラベリング/アノテーション」のプラットフォームを提供するAIベンチャーだ。米国では、アンドリーセン・ホロウィッツ、データブリックスの投資会社のDatabricks Ventures、有名投資家キャシー・ウッドが率いるアークインベスト、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなど錚々たるVCから資金調達をすませた急成長企業。日本では日立ソリューションズが販売代理店契約を結んでいる。ブライアン・リーガー氏は日立ソリューションズのオフィスでインタビューに応じてくれた。
航空力学からAIへ
── 起業の経緯を教えて下さい。
フロリダにあるエンブリー・リドル航空大学で航空力学が専門でした。当時は航空・宇宙機器のハードウェアの設計の仕事をめざしていました。その後、ボーイング社に研究者として6年間務め、ボーイング787 ドリームライナーのフライトテストなどに参画していました。そこで革新的なエンジニアリングについて多くのことを学びました。ボーイング787のプロジェクトでは、日本の製造業で、新幹線などに関わったエンジニアリングチームとの共同作業もあり、刺激を受けたことを覚えています。
── 航空・宇宙からAIへ転身した理由は何でしょうか?
大学時代は航空機の設計のため、機械学習を学び、その後ソフトウェア工学やコンピュータサイエンス、現在のAIの実践技術を学んできました。すべて独学です。10年前なので、ディープラーニングはまだ初期の段階で、応用技術はかなり原始的でした。当時はそれ以前のニューラル・ネットワーク技術が主流でした。
航空力学は今でも私が情熱を傾けている分野です。ただ私自身は、起業したいという夢があり、ボーイングを辞めて、大学時代から一緒だったシャルマ(Manu Sharma)と起業したのです。それまでのデータサイエンスとAIを活かしたツールで、人々の社会や世界を変えていきたいと思ったからです。シャルマとはそれ以前にも、いくつか会社を作りましたが、ラベルボックスというビジネスのアイデアを持って、本格的に始めたのが2018年です。
── ラベリングやアノテーションという領域に特化した理由は?
これまでのソフトウェアの開発は、構造化された情報を処理するためのコードを書くことでした。そのためのプログラミングツールは半世紀にわたって進化してきました。ソフトウェアの開発のプログラミングは、人がコードを書いたり編集したりすることが重要でした。AIの開発においては、ラベリングによって「データを鍛える」ことが重要となります。ラベリングとは人間がコンピュータやAIに世界を理解する方法、意思決定の方法を与えることです。ラベリングツールを作ろうと思った目的は、トレーニングデータの収集とラベル付けを容易にすることです。データサイエンティストやエンジニアのニーズを解決してくれる良いツールがなかったからです。