DXへの取り組みとしてデジタル基盤の強化を推進
中外製薬は2020年に、「デジタル基盤の強化」「すべてのバリューチェーンの効率化」「デジタルを活用した革新的な新薬創出」の3つの基本戦略からなる「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げた。ビジョン策定前年に、全社横断的にDXを推進するため発足したデジタル戦略推進部が担うのは、デジタル基盤の強化である。
「それぞれの基本戦略は担当する部署がそれぞれ独自に動いていたのですが、私たちデジタル戦略推進部が特に注力してきたのはデジタル基盤の部分です」と話すのは、上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長の志済聡子氏。他の基本戦略を進めていくうえで全社基盤となるものをしっかりと構築する、その一つがデジタル基盤なのだ。
これまでは、Research & Development(R&D:研究開発)の領域で解析を行う環境がオンプレミス中心で構成されており、コストと期間がかかっていた。これをクラウドベースに置き換えることでコストを抑えるだけでなく、よりスピーディーかつ高パフォーマンスなシステムを実現するためにも、新たなデジタル基盤の構築に着手。また、新基盤の構築とあわせて、全社的なDXの取り組みを推進するためには、どうしても人材が必要になる。そこで中外製薬では、DX人材を育成することを目的に、2021年に「CHUGAI DIGITAL ACADEMY(CDA)」という社員の育成プログラムをスタート。そして組織風土改革の一環としてDigital Innovation Lab(DIL)をはじめ、社員が持ち込んだデジタルを活用したアイデア実現の支援も行っている。
このように組織や基盤から変えていくことで、すべての部署が例外なく「デジタルに取り組まなければならない」という考えに変わっていった。デジタル戦略推進部では、こうした土台を整える人や文化を変える取り組みを“フェーズ1”と捉えており、現在では取り組みをさらに加速させ、ビジネス変革から成果をあげていく“フェーズ2”へと進展している。
保管される大容量データを活用し、医療DXの実現を目指す
現在取り組みを進めているフェーズ2においては、臨床現場で得られる医療データなど「リアルワールドデータ(RWD)」を重要視しており、実際に臨床試験でも活用されるようになっている。クラウド環境を利用してRWDの膨大なデータを活用することは、フェーズ1の段階で模索されており、その解析結果の一部は医薬品の承認申請に参考資料という形で添付されている。
「医療DX」という言葉が叫ばれているように、こうした医療データの活用は喫緊の課題だ。たとえば、電子カルテの整合性がとれていないという現状はずいぶん前から指摘されており、政府内でも問題提起されている。こうした背景を踏まえた上で志済氏は「フェーズ2では中外製薬だけでなく、業界全体を巻き込んでDXを推進していきたい」と語った。その橋頭保として、クラウドに大容量データを保管し、解析に利用できる「Chugai Scientific Infrastructure(CSI)」を社内で共同利用するだけでなく、二次利用の動きを加速させていく方針だ。
「こうした取り組みにともない、Snowflakeのような共通基盤や共通ソリューションを推奨していくことで、部門を越えてデータの利活用を進めています」と志済氏。では、実際にどのようにSnowflakeを活用しているのだろうか。