東急グループ、設立100年目に発したデジタル戦略
酒井真弓(以下、酒井):創立100周年を迎えた今年、東急グループにとって初めてのデジタル戦略を発表したそうですね。
梶井由起子(以下、梶井):実は、2019年の統合報告書で「CaaS(City as a Servise)構想」を打ち出し、リアルとデジタルの融合によってお客さまに新たな価値を届けるのだと発表しました。しかし、構想を掲げたものの、どのようにデジタル化を進めていくのか明文化できていなかったのです。
そこで今回は、社内のデジタル化からデジタルを活用した競争優位の実現、人材育成や企業カルチャーにいたるまで、変革の道筋を整理しました。
酒井:市場や顧客ではなく、まず社内に向けて打ち出したのはなぜですか?
梶井:どんなにカッコいいデジタル戦略を掲げても、お客さまとリアルで接している従業員が腹落ちしないと実行されません。まずは従業員に腹落ちしてもらい、何をなすべきか一人ひとりが自ら考え、行動できるようにしたいと思いました。
今のロードマップでは、2025年までに次世代プラットフォームを整備し、2030年にはお客さまに新たなサービスを届けるとしています。でも、悠長なことを言っていると時代が変わってしまうので、2025年を目処にサービス第1弾を提供できるようにしていきたいです。
酒井:「顧客起点の取り組み(CX:顧客体験)」と並んで「従業員起点の取り組み(EX:従業員体験)」に力を入れる理由は何ですか?
梶井:働く人の満足度を高めることが、CXの向上に直結するからです。日常業務の不便さを解消できれば、そのぶんお客さまと向き合える時間が増えますよね。
テレワーク環境は2019年までに整備し、コロナ禍では在宅勤務が可能な職種からスムーズに移行できました。現在、バックオフィスの非競争領域は積極的にSaaSを活用したり、社外のパートナー企業とシームレスにやりとりできる方法を探ったりと、時代の要請に応えられる業務環境にアップデートしている最中です。
酒井:東急グループのように多くの事業を展開していると、テレワーク環境を利用できない方もいらっしゃいますよね。それぞれの働き方を考慮して変革を進めていく必要があると思いますが、どのような工夫をされていますか?
梶井:その通りで、駅や店舗で働く方は、日々の業務をPCではなくモバイルで実施するほうが効率良かったりして、オフィスと現場では最適なITの環境が違います。そうなると、全員に最新のPCを配布しても余計なコストになってしまいますよね。
こうしたことはオフィスで席に座っていても分かりません。仮説を作って現場に行き、「こんなの要らないよ」とか「それよりこんなものがほしい」といった議論を繰り返すことで、より良い業務環境を追求していく必要があると思っています。
グループ各社各様のゼロトラストを模索中
梶井:クラウド活用やワークスタイル変革を推し進めるために、セキュリティ対策としてゼロトラストモデルの適用も進めています。
酒井:どのように進めていらっしゃるのですか?
梶井:前提として、東急グループの事業は幅広く、鉄道・バスや不動産、生活・サービスなどに加え、数十人規模の会社もあれば、病院や金融もあります。病院や金融のような重要インフラは特に守るべきものが多く、もともと社外からアクセスできない環境を主としています。やる/やらないを含め、各企業体に最適なゼロトラストのあり方を議論しています。
最初に他社の事例を聞いてしまうと惑わされかねないので、事例もコストも一旦置いておいて、「私たちはゼロトラストで何を実現したいのか、目的をぶらさずに行こう」ということで進めています。