モデル化とシミュレーションの成果
天文学ではモデル化とシミュレーションにより、天体の軌道を正確に解明することができる。また、物理学ではニュートンの万有引力の法則など多くの法則が発見され、自然現象が解明されている。この法則は自然現象を忠実に表現したモデルの一つと解釈することができる。
また、自動車の開発では3次元CADを用いてデジタルプロトタイピングが実用化されており、大半の設計がコンピュータ上のモデルで進められている。自動車の衝突実験までがデジタルプロトタイピングの世界でおこなわれているのは驚きである。これにより何億円もする試作車を作らずに実験ができるため、大幅なコストの削減と開発期間の短縮が実現されている。このように科学技術の世界や製造業ではモデル化が大きな成果を生んでいる。
ソフトウェアのモデル化
筆者が若い頃に勉強したソフトウェア構造化技法やデータ指向技法は、実際の業務をシステム化する際のモデル化技法である。現在もっとも期待されているソフトウェア開発方法論はオブジェクト指向方法論であろう。この方法は対象システムに存在する「もの」を「オブジェクト」として抽象化し、現実世界の構造に近い形でソフトウェア自身をモデル化する。
つまり、ソフトウェアの本質的な複雑さを少しでも軽減してやるためには、前回で取上げたソフトウェアの「分解」も大切だが、ソフトウェアの「モデル化」はさらに重要である。
フルフィルメント・ビジネスモデル
では、サービスのモデル化を考えてみよう。図1はコールセンターの代表的なビジネスモデルの一つである「フルフィルメント・ビジネスモデル」である。このビジネスモデルでは、コールセンターはトラブルの受付けだけでなく、顧客の技術相談に乗り、故障を診断し、適切なスキルのカスタマエンジニア(CE)をアサインし、現地で修理しているCEのヘルプデスクを担当し、さらに故障修理全体の進捗管理までを担当する。
このビジネスモデルを吟味すると、コールセンターが生み出す価値は受付けにあるのではなく、しっかりした技術相談によりCEの出動件数を軽減し、現場のCEの修理作業を効率化するところにあることが分る。オムロンフィールドエンジニアリングの事例では、このビジネスモデルを採用したことにより、年間7万件近くの出動軽減が実現されており、顧客満足を高めると共に10億円以上のコスト削減につながっている。