前回、解決志向についてお話ししました。最終回となる今回は、その活用事例を通して健全な職場をつくるためのヒントを紹介します。
はじめに
前回、解決志向についてお話ししました。職場を解決志向の目で眺めてみていかがでしたか? 何かしら視界の変化に気づいた方もいらっしゃるのではないかと思います。
一方で、「具体的にどのような取り組みをすれば良いのかわからない」「そんなにうまくいくとは思えない」と感じた方もいらっしゃることと思います。今回は、解決志向の活用事例を通して、皆さんの取り組みに役立つヒントをお伝えします。まずは、あるマネージャーが課内のコミュニケーションを改善した事例を紹介しましょう。
問題志向の風土の中で ― 製造業A社の事例
製造業では、「モノが確実にできて当たり前」「仕事も確実にできて当たり前」「同じような作業の繰り返し」という雰囲気が漂うケースが比較的多いようです。山梨県にある製造業A社の職場でも、そのような空気が少なからず存在していました。
「前向きに考えよう」という意識が希薄な風土をどうにかしたいと考えた経営者は、会社の将来を皆で考えるための議論の場を用意しました。しかし、問題の分析を得意とする問題志向型の社員に、いきなり「どんな会社になればいい?」という話題を振ってもなかなか答えられるものではありません。

そうした状況が続く中、A社の課長Sさんはコミュニケーション改善のためにひとつの取り組みを始めました。それは、「自分のアンテナを磨くこと」。そして、「アンテナに引っかかったものを認めること」でした。
アンテナを磨く
「アンテナを磨く」とは、具体的には「目の前にある当たり前のことを上手く行っていることとして見る」ということです。例えば、毎日行っている当たり前の作業も、それが失敗すれば製品はできません。つまり、最終的な成果を挙げるために必要な作業一つひとつがキチンと成功していると見ることができるわけですね。アンテナを磨くにつれて、職場で上手くいっていることを次々と発見できるようになっていったとSさんは言います。
アンテナに引っかかったものを認める
立場上、Sさんのもとには多くの社員が報告にきます。その際に、Sさんは彼らを評価し、認めるようにしました。例えば、「必要なところまで進んでいるね」「このレベルまではできているね」「手順書どおりだからOKだ」「原価割れはしなかったね」といった具合です。報告する側の社員としては、課長から声をかけてもらうことで安心感を得られるようになりました。

また、苦労している点を一緒に振り返りながら、ねぎらうこともしました。相手がアピールしたい点が伝わってくる時には、逃さずしっかり耳を傾けました。それがわからない時は、「報告してもらうことは全部終わったようだけど、まだスッキリしないの?」と聞いてみたそうです。そうした場合は、彼らが悩みを相談してくれることもありました。結果として、職場に以下のような変化が起きました。
- 社員と話をする機会が多くなった。
- ちょっとしたことでも報告してくれるようになった。
- 以前はわからなくても放っておいた人が仕事の進め方を相談するようになった。
- 話をすると気分が楽になると言われるようになった。
- 自ら動いてくれるようになった。
- そして何より、社員と接する自分の気分が楽になった
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- この記事の著者
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株式会社ピースマインド 臨床心理士 梶原 成子(カジワラ シゲコ)
大学院修了後、情緒障害児治療施設・不登校支援施設、スクールカウンセラー、医療機関における多様な心理臨床業務に携わり、悩みを抱えた個人・家族へのカウンセリングを始め、その周囲の関係者への心理支援、コンサルテーションを行う。現在もそれらを続ける傍ら、ピースマインドカウンセラーとしても勤務。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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