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Data Tech 2022 レポート

まず取り組んだのは経営層への意識改革 ANAが目指す、DXの内製化とデータ活用による新戦略

事業成長におけるデジタル困難を乗り越える力

 2022年12月8日、EnterpriseZine編集部主催のオンラインイベント「Data Tech 2022」が開催された。セッション「事業成長におけるデジタル困難を乗り越える力」では全日本空輸株式会社(ANA) デジタル変革室 イノベーション推進部 担当部長 チーフデータストラテジスト 西郷彰氏が登壇。ANAにおけるデータ活用とDX推進の取り組みについて紹介を行った。西郷氏はDX人材の内製化を掲げた上で、外部への過度な依存は競争力を弱体化させると語る。はたしてその言葉の真意、そして同社が取り組むデータ活用のための改革とは。

コロナ禍の痛手をバネにDXへの取り組みを加速させるANA

 ここ数年、コロナ禍にともなう外出・移動の自粛で旅客機の利用者は激減し、航空各社の経営は大きな打撃を受け、それはANAも例外ではなかった。そんな中、現在同社は生き残りと事業体質の強化を目指して、全社を挙げてDXに取り組んでいる。その目玉施策の1つとされているのが、「ANA SMART TRAVEL」と呼ばれる新サービスモデルだ。

 西郷氏はANA SMART TRAVELが目指すところについて、「これまでのような人を介したおもてなしの強みは継承しつつ、同時にこれからの時代に求められる『非接触』『セルフ』『パーソナル』なサービスをさらに強化していきます。そのためにモバイルデバイスを最大限に活用し、飛行機の搭乗準備からチェックイン、搭乗、機内エンタテインメントに至るまでの一連の顧客体験を、スマートフォンアプリを通じて一貫して提供することを目指しています」と説明する。

全日本空輸 デジタル変革室 イノベーション推進部 担当部長 チーフデータストラテジスト 西郷 彰氏
全日本空輸 デジタル変革室 イノベーション推進部 担当部長 チーフデータストラテジスト 西郷 彰氏

 具体的には、スマートフォンアプリを通じて事前に搭乗手続きを行えるほか、空港到着前に運航状況を確認したり、遅延・欠航時の予約変更手続きなどもすべてアプリを通じて行える仕組みを実現している。この一連のシステムはANAグループ内で完結させ、全て自前で企画・開発されたという。また、空港での手荷物預入の手続きも非接触で行えるよう順次自動化が進められており、現在国内の主要空港には自動手荷物預け機が導入されている。

 こうしたデジタル化、DXの取り組みは社外でも高く評価されており、経済産業省と東京証券取引所が毎年選定する「DX銘柄」には2018年、2019年、2022年に選出。2019年には銘柄選定企業の中でも最も先進的な取り組みを進める企業に贈られる「DXグランプリ」も受賞している。

 このほかにも2019年には一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアムが選定する「データマネジメント大賞」を、2020年には公益社団法人 企業情報化協会(IT協会)が選定する「IT最優秀賞(顧客・事業機能領域)」を受賞するなど、各種の表彰を受けている。

外部への過度な依存は競争力を弱体化させる

 ただし同社のDX推進の道のりは、決して平たんなものではなかったという。そして同社が直面した数々の困難は、「DXに挑む多くの日本企業が抱える共通の課題なのではないか」と西郷氏は述べる。

 「いわゆるネット企業では、DXの戦略策定から企画、開発・実装、運用に至るすべての機能を自社でまかなうことができます。一方ANAも含めた多くの日本型企業では、近年中期経営計画の中でDXを謳うなど、戦略や企画の部分は自社内でまかなえてはいます。しかし、実際にそれを施策に落とし込んで実行に移す段になると、一転して他社任せになってしまっているのが実情ではないでしょうか」(西郷氏)

 たとえば、DXの具体的な施策を下支えするデータ基盤1つとってみても、自社だけで設計・構築をすべて完結できる企業は数少なく、大半の日本型企業はSIerに多くを依存しているのが実情だ。またその上に載るサービスを企画する際にはコンサルタントの支援を仰ぎ、データ分析を行う際には分析に強いベンダーを頼り、さらにアプリケーションを開発する際には開発ベンダーに大半の設計・開発作業をアウトソースするのが当たり前になっている。

 さらにAIを使った高度な分析や予測を行おうとする場合には、それ相応の高度な専門知識やスキルが必要となるため外部のベンダーに頼る度合いがより一層高くなる。もちろん、事業会社がこれらすべての機能を自社内に揃え、すべてのシステムを内製開発するのは現実的とは言えない。しかし、現在多くの日本型企業が抱えている問題は「外部に過度に依存している点にあるのではないか」と西郷氏は指摘する。

 「私自身、完全内製化にはさほどこだわっておらず、むしろ協創型の外部パートナーさんとうまく協業することを推奨しています。しかしあまりにも外部に依存しすぎると、専門性が高い分野のノウハウが内部に残りづらくなり、結果的に自社の競争優位性を失いやすくなってしまいます。また外部への過度な依存は、コストやスピードの面でも不利になりがちです」(西郷氏)

次のページ
内製力を強化するための数々の施策とその成果

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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