なぜDEXが重要になったのか?
ロイヤルカスタマーを育成するため、企業が顧客体験の向上に注力するようになったのは2010年代からのことだ。当時は、先進企業でも従業員体験に目を向けるところは少なかったが、そのトレンドが変化したのは2020年代に入ってからのことである。コロナ禍を経て、オフィスとリモートのどちらにいても生産性の高い働き方を実現するデジタル従業員体験(以降、DEX)の重要性が高まった。DEXと従業員の定着率には大きな関係がある。DEXが悪ければ、今の従業員の離職を招くだけでなく、新しい社員が「この会社で働きたい」と思う気持ちを阻害することにもなりかねない。
従来、企業内で社員が使うPC、メール、オフィスアプリケーションなどのトラブル対応は、ヘルプデスクの担当だった。だが、コロナ禍を経てデジタルワークプレイスを取り巻く状況は、もはや生産性向上ツールが焦点ではなくなった。多くの企業はハイブリッドの作業環境をサポートすることが当然となった。加えて、以前と比べて仕事で利用するツールが増えている。IT部門にはデジタル化を進めると同時に、ツールごとにパスワードを求めるような社員に負担をかける仕事環境の改善の両方が求められるようになった。
テイ氏はDEXを、「企業が従業員に提供するテクノロジーエクスペリエンスに焦点を当てた戦略」と定義する(図1)。企業が導入している様々なアプリケーションからIT部門は多くのデータを得られる。
具体的には、パフォーマンスのデータ、組織の状況に関するデータ、従業員のセンチメントに関するデータである。これらを合わせて分析すると、1人ひとりの働く環境が本当にビジネスに貢献しているかが見えてくる。これまでのように、可用性、信頼性、パフォーマンスのようなテクノロジーに重きを置いて導入したツールでは、持続的なROI改修が期待できない。企業のこれからのIT投資ではDEXを意識することが必要になる。