エッジコンピューティングのユースケースはIoTだけではない
──講演では「エッジコンピューティングのユースケースがIoTだけではなくなってきた」と語り、全部で12のユースケースを紹介されていますね。
現在のユースケースのほとんどはセンサーからデータを得て処理を行うIoTのユースケースが中心で、導入は製造業が中心です。他のユースケースが増えてきた背景にある重要な要因としては、グローバル化の文脈が変化していることが挙げられます。多国籍企業のIT部門は、時間をかけてグローバル規模の標準化に取り組んできましたが、パンデミックとロシアのウクライナ侵攻をきっかけに戦略の見直しが必要になりました。
例えば、ある国では社内標準のテクノロジーとして定めていても、別の国では別のテクノロジーを使わなくてはならない。また、プライバシー規制強化は各国で少しずつ異なっており、その対応も一律にはできない。この状況を「脱グローバル化(deglobalization)」の進展と見る向きもありますが。私はこれを「再グローバル化(reglobalization)」と位置付けています。IT部門にとっては、この再グローバル化の文脈で適切なITガバナンスを効かせていくことがこれからのテーマになるでしょう。グローバル化とエッジコンピューティングと結び付ける機会はまだ少ないと思いますが、これから世界中で重要性が増していきそうです。
──再グローバル化あるいは脱グローバル化は、エッジコンピューティングを加速する要素と考えてもいいですか。
エッジコンピューティングは、再グローバル化に伴う問題を解決する手段です。エッジコンピューティングのドライバーは、先述の「法規制の強化」を含む「ネットワークの接続性の悪さ」「帯域コストの高さ」「立地条件の悪さ」の4つがあります(図2)。
多国籍企業は多くの地域に支社を持っていて、どの拠点でも同じ水準でワークロードを処理することが難しい状況にあります。エッジがサポートできるのは4つのどれかに当てはまる場合です。例えば12のユースケースに「イマーシブレポーティング」があります。これは法規制強化がドライバーになっています。データの処理はリアルタイムに拠点ごとのエッジで行いますが、本社のデータと同期すると、これまで見えなかったオペレーションの全体像が、没入感を持って把握できるようになります。