世界の自動車業界がEV時代の到来を前に構造改革を急ぐ。その一方で目の前の課題も山積みだ。コロナ禍以降、日本の自動車業界は世界的な半導体不足、ルネサス那珂工場の火災、東南アジアのロックダウンなど、サプライチェーンの分断がもたらす多くの問題に直面した。これらの問題はデータで解決できるものではないか。欧州を中心に自動車業界のサプライチェーンに関するデータ交換のエコシステム構築を進めるコンソーシアムがCatena-Xである。
Catena-Xの設立経緯:サプライチェーン危機も関係
──Catena-Xには多くの会社が参加していると聞いています。どんな会社が参加しているか、メンバーの現状をご紹介下さい。
ハーゲン:Catena-X ができたのは2021年5月、2023年1月1日時点の参加企業は133社になります。主なメンバーには、完成車メーカーのフォルクスワーゲン(以降、VW)の他、BMW、Mercedes-Benz、ステランティス、Volvo、Fordなど、サプライヤーでは日本のデンソーや旭化成、ITではシーメンス、NTTデータ、富士通などが参加していて、自動車業界とIT業界は協力関係にあります。
また、規模の点で完成車メーカーに及ばずとも、リサイクルやサーキュラーエコノミーのビジネスに携わる企業、国際的な研究機関なども参加しています。理事会にはVWとSAPを含む9社が名前を連ねています。Catena-Xは傘のようなもので、その傘の下、ビジョンとアイデアを共有するメンバー企業各社が標準化やガバナンス確立などの活動に取り組んでいます。
──両社ともCatena-X設立時からのメンバーですか。
フランク:VWはパイオニアメンバーの7社のうちの1社で、私のCatena-Xでのミッションはハーゲンらと共に取り組みをより国際的に大きくしていくことです。
ハーゲン:データ交換はITのテーマとあって、SAPもパイオニアメンバーの1社として参加しました。すべてのメンバー企業が信頼できる形でデータ交換ができる仕組みの提供が重要と考えています。自動車業界の最も大きな課題は、他の会社に自分の会社のデータを使われたくないと皆が抱え込んでいることではないかと思います。しかし、サプライチェーンのレジリエンスやサステナビリティの課題は、単独の会社で解決できる類のものではなくなりました。サプライチェーンが国際的なものになった以上、課題解決には国際的な協力関係が必要です。中央集権的ではなく、分散型で中立的な仕組みの構築がメンバー企業全員のWin-Winを実現すると考えています。
──Catena-X設立に至ったのは、きっかけとなった出来事があったからなのでしょうか。
フランク:2021年を振り返ると、エバーギブン号のスエズ運河の座礁事故、世界中の半導体危機など、サプライチェーンに関する問題が多発した年でした。自動車業界はどこにどれだけの半導体があり、どの会社がどれだけ供給しているかもわからない。生産キャパシティがどの程度かもわからないという大きな問題を抱えていました。原因はサプライチェーンに透明性が欠けていることにあります。今の自動車業界のサプライチェーンは1国に閉じたものではありません。世界規模のものです。ですから、ITプロバイダーに入ってもらい、世界全体でデータ交換ができるエコシステムを作る方法を探そうと考えました。その結果できたのがCatena-Xです。