2年におよぶ出光興産×昭和シェルの基幹システム統合の舞台裏──いかに現場担当者を巻き込むか
第9回:出光興産 デジタル・ICT推進部 主任部員(コーポレートシステム担当) 柴田美貴さん

燃料油、基礎化学品、資源など幅広い事業領域をもつ出光興産。2019年の昭和シェルとの経営統合を皮切りに、システム面でも大規模プロジェクトが続いている。デジタル・ICT推進部で基幹システムの会計領域を担当する柴田美貴さんは、今こそ情報システム部門の意識改革が必要だと話す。
丸2年、昭和シェルとのシステム統合プロジェクトで学んだこと
柴田美貴(以下、柴田):出光興産と昭和シェルは、2019年4月に経営統合し、丸2年かけて基幹システムを統合。2021年10月にカットオーバーしました。私のミッションは、新プロセスへの移行切替を混乱なく終えるとともに、稼働後の重大な決算障害を未然に防ぐことでした。既存システムの保守運用も兼任していたので、それはそれは忙しい日々でした(笑)。
酒井真弓(以下、酒井):歴史ある2社の基幹システムを統合するなんて、想像しただけでも大変そうです。どのように進めていったのでしょうか?
柴田:旧出光興産、旧昭和シェル、どちらにも既存の業務プロセスがありました。まずは大方針として、統合に向けた方針を共有したのです。「同じ会社なのに業務プロセスが2つあるのはおかしいよね、1つにしていこう」と。
プロジェクトでは、切り替えが必要な取引を網羅し、会計整理を含めて決定していく作業が1番大変でした。両社ともにSAPを使っていたので、基本的にはSAPの考え方を踏襲できるのですが、出光興産は事業領域が多く、領域ごとに別の仕組みが動いていたりするのです。取引内容を整理し、会計担当者と一緒に上流からアウトプットとなる仕訳まで見える化し、どのプロセスに統合すればいいのか、あるいは新規のプロセスとして定義すべきかを現場目線で地道に確認していきました。現場がやってきたことを漏れなく把握していくのは結構大変でしたね。

ここで学んだのは、現場の人たちへの単発のヒアリングだけでは「そういえば年1回こんなことをやってました」みたいなものは、どうしてもこぼれ落ちてしまうこと。それに気づいてからは、実績データを元にした網羅的な確認を徹底しました。その過程で、関係部門の担当者ともコミュニケーションが取れるようになり、稼働後の懸念や運用方法をやりとりできたことは事前に課題をつぶしておくのに効果的でしたね。現場の人たちも、稼働が近づくにつれて徐々に「自分の業務がどう変わるのか」気になってきますので、“自分事”として考えてくれました。地道な活動でしたが、結果的に切り替え後の大きな混乱や誤りの防止につながったと思います。
酒井:現場担当者を巻き込むことは大事ですね。両社の業務を一本化するために、他に取り組んでいることはありますか?
柴田:システムの統合プロジェクトとは別に、「DTK(だったらこうしよう)プロジェクト」というのがあります。両社の統合を機に業務効率化と生産性向上により、社員のモチベーションや能力、企業競争力を向上しようという取り組みです。各部署に事務局を配置し、様々なDTK活動が進められています。その中には、情報システム部門で対応するシステム化案件も少なくありません。これまで拾いきれなかった社内外各所からの様々なシステム絡みの要望はとても貴重です。せっかく挙げられた要望をどう実現していくかは腕の見せ所だなと思っています。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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