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ビックカメラ公認の「海賊船の船長」が摩擦を恐れずに進めるDX 前職で培った“内製術”で手腕を振るう

すべては「お客様喜ばせ業」実現のため。内製エンジニアの育成にも本腰


 家電小売業大手のビックカメラが、現在DX実現に向け大変革に取り組んでいる。2022年6月に社内外に向けて「DX宣言」を発表したのに続き、同年9月に内製開発を推進するための新会社も設立した。こうした取り組みの背景には一体どのような狙いがあり、そして現在はどの地点にいるのか。これら一連の取り組みを率いるキーマンである同社 執行役員 デジタル戦略部長 野原昌崇氏に話を聞いた。

1年半で「DXにまい進する」イメージを定着

 ビックカメラは2022年6月、同社がパーパスとして掲げる「お客様の購買代理人としてくらしにお役に立つくらし応援企業であること」の実現に向けて、全社を挙げてデジタル活用を推進することを「DX宣言」として発表した。

 オフライン(店舗)とオンライン(ECを含めたデジタル)の融合によって魅力的な顧客体験の提供を目指すOMO(Online Merges with Offline)戦略を推し進めるとともに、そのための手段として基幹システムのクラウド移行およびモダナイゼーション、さらにはシステム開発の内製化といった施策をAmazon Web Services(AWS)、Salesforce、RPAテクノロジーズといったベンダー各社との協業を通じて実現するとしている。

 これら一連の取り組みを率いるのが、同社 執行役員 デジタル戦略部長の野原昌崇氏だ。もともと前職でDX推進を担当していた同氏がビックカメラに入社したのは2021年のこと。その後わずか1年半の間に矢継ぎ早にDX施策を打ち出して、社内外に「DXにまい進するビックカメラ」というイメージを定着させた。

 野原氏によれば、現在ビックカメラが進める「OMO戦略」「基幹システムのモダナイゼーション」「内製化」の取り組みは、それぞれがばらばらに進められているわけではなく、互いに密接に連携しながら企業理念や行動指針の実現につながっているという。

 「すべてはビックカメラが創業以来掲げている理念『より豊かな生活を提案する“こだわり”の専門店の集合体』および『お客様喜ばせ業』を実現するための施策です。リアル店舗を持つ強みを生かしたOMO戦略で、お客様により高い価値を提供し、物流をさらに効率化してお客様にタイムリーに商品をお届けするために基幹システムをモダナイズしてアジリティを向上させる。そして内製開発によってクイックにお客様のニーズにお応えする。すべては“お客様喜ばせ業”を実現するためなのです」(野原氏)。

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ビックカメラ 執行役員 デジタル戦略部長 野原昌崇氏

「海賊船の船長」として変革の旗を振り続ける

 同社は2022年1月、DX推進のための組織「デジタル戦略部」を設立。同年6月に前出のDX宣言を発表したのに続き、9月にはシステム内製化を担う会社として「株式会社ビックデジタルファーム」を新設した。この新会社の社長も務める野原氏は2021年の入社以来、デジタル戦略部において社内のカルチャーを変革すべく様々な施策を矢継ぎ早に打ち出してきたという。

 「デジタル戦略部はもともと情報システム部門が母体になっているのですが、情シス特有の『下請け意識』を改革して上流の戦略組織へと脱皮させるべく、新たに組織を再編しました。またDX宣言には、社外に向けて弊社のDXの取り組みをアピールして、優秀なデジタル人材を採用する狙いもありました。これに加えて各種メディアにも積極的に露出した結果、エンジニアの求人に対する応募者数が一気に増えました」(野原氏)。

 こうした急激な変革に対して、社内の戸惑いも決して少なくないという。しかし野原氏はこれに決して臆することなく、むしろ“積極的に衝突を起こすぐらいの意識”で変革に取り組んでいると語る。

 「もともとデジタルネイティブな会社は、今さら『DXが必要だ!』なんて言いません。『DXをやらなければ』と言っている時点で、既に組織が硬直化していると自覚するべきです。そんな状況下でトランスフォーメーションを実現するためには、摩擦は不可避です。むしろ積極的に摩擦を生じさせるべきだとすら考えています」(野原氏)。

 現在同氏は社内において「海賊船の船長」として、困難に立ち向かい切り開いていくことが使命だと自覚しているという。事業部を大型船に例えるなら、野原氏らは海賊さながら小型ボートで大型船に乗り込み、「こんなシステム化は意味がないからやめましょう!」「こんな業務はそもそも無駄だからなくしましょう!」と正面から堂々と向き合う。有望そうな人材を見付けると「私たちと一緒にやろう!」とスカウトして、次の大型船に乗り込んでいく。

 「これまで事業部門の注文をそのままシステム部門が対応せざるを得なかったところを、今度はシステム側から声をあげて事業部門と一緒にいいものを作っていく。でも決して単独行動で暴れ回っているわけではなく、そもそも私は会社の経営陣からこのような動きを期待されて入ってきましたから、いわば『会社公認の海賊』なんです」(野原氏)。

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RPAの全社活用により年間2万3,500時間の削減を達成

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)

EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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