医療機関のデジタル化を阻む“特有の課題”
医療機関におけるデジタル活用の必要性が叫ばれるようになり、既に久しい。医療の高度化や高齢化社会の進展にともない、医療従事者の業務負担は年々増加の一途を辿っている。その一方で、労働人口の減少により医療人材の確保は困難さを増しており、業務の効率化はあらゆる医療機関にとって喫緊の課題だ。
そんな中、埼玉県立病院機構ではRPAの導入を通じて業務効率化に取り組み、着実な成果を上げている。同機構は埼玉県立循環器・呼吸器病センター(343床)、埼玉県立がんセンター(503床)、埼玉県立小児医療センター(316床)、埼玉県立精神医療センター(183床)の4つの専門病院を運営する地方独立行政法人だ。2021年4月の独立行政法人化を機に、デジタル活用による業務効率化を推進している。
「医療機関におけるIT部門の弱さは、一般企業の方々からすれば驚くべき実態かもしれません。多くの医療機関ではIT専門部署が存在せず、当院もその一つです。そのためシステム導入の意思決定プロセスも確立されていません。ITベンダーが提案するソリューションの中から何を選択すべきかを十分に議論し、優先順位を決めて組織的に意思統一を図れている病院は極めて少ないのが実情です」
こう語るのは、埼玉県立がんセンター 副病院長の別府武氏。同氏によれば、医療機関特有の組織文化もデジタル活用推進の障壁となっているという。「医師は患者を診るだけでいい」という古い考え方が根強く残る一方で、事務部門は医療現場の実態を十分に理解できていないケースも少なくない。その結果、現場のニーズに即したシステム導入が進まず、かえって業務負担が増える事態も発生している。
さらにはクラウドの導入に対する漠然とした不安感も、デジタル化の足かせとなっている。「日本の電子カルテは大半がオンプレミス型です。クラウド化への抵抗感が強く、セキュリティに対する漠然とした不安がIT活用が遅れている大きな理由の一つとなっています」と別府氏は指摘する。
こうした課題に対して、埼玉県立病院機構では医療現場出身の担当者がRPA活用推進の中心的役割を担うことで着実な成果を上げている。同機構で医療DXとRPA普及を担当する横田進氏は、臨床検査技師として40年以上のキャリアを持つ医療従事者だ。1980年代から独学でプログラミングを学び、輸血システムの開発など数々のシステム化プロジェクトに携わってきた経歴を持つ。
同氏は定年退職後、再任用という形で埼玉県立病院機構本部の医療DX推進担当として現在活動している。4つの病院を横断的に訪問し、現場の課題やニーズを直接ヒアリングしながら、RPA活用による定型業務の自動化・省力化と、それにともなう業務効率化の取り組みを推進しているという。