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日本のエンタープライズIT総支出額が28兆5,344億円に達する見通し──ガートナー調査

 ガートナージャパン(以下、Gartner)は、2023年の日本のエンタープライズIT総支出額が、2022年から4.7%増の28兆5,344億円に達するという見通しを発表した。なお、成長率が最も高いと見込まれている産業は、銀行/投資サービスであり、それに続くのが小売だとしている。

 同社プリンシパル リサーチャーの成澤理香氏は、「2022年の日本のエンタープライズIT全体の支出額は、2021年から5.2%増加しましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期化や物価や為替変動などの影響もあり、産業別で見ると業績の明暗が分かれました。2023年も産業による成長率の差はあるものの、全産業でプラス成長を見込んでいます。製品・サービスの価格高騰がIT支出を押し上げている側面はあるものの、デジタル化やクラウド・ファーストへの取り組み、リモートワークを含む業務変革への意欲、経済安全保障に対する中長期的な強化といったトレンドが引き続きIT投資を促進する見通しです」と述べている。

 産業別で見ると、2022年に唯一マイナス成長となった教育(-11.5%)は、引き続き最も低い成長が予想されているものの、2023年はプラス成長(1.1%)に転じることが見込まれているという。また、2023年は、12の産業別セグメントのうち6つの産業で2022年よりも高い成長が見込まれている。2022年に最も成長率が高かった銀行/投資サービス(7.9%)は、成長率自体は2022年に比べて鈍化するものの、2023年も最も高い成長が予想されているという(6.8%)。それに続くのが小売(6.0%)、政府官公庁/地方自治体(5.3%)だとしている(表1参照)。

表1.日本の産業別エンタプライズIT支出予測(単位:億円)
表1.日本の産業別エンタプライズIT支出予測(単位:億円)
注:四捨五入のため合計欄の値が個々の項目の合計値と異なる場合がある
出典:Gartner(2023年2月)

 2023年は、すべての対象産業でIT支出がプラスとなる見通し。インフレや金利の変動、サプライチェーンの制約、国際紛争、COVID-19の長期化など、経済的混乱が続くことが予想されているが、デジタル化関連投資を最優先事項のひとつと位置付ける企業は依然として多く、Gartnerでは、IT支出の全体的なレベルに大きな影響はないと考えているという。最も高い成長が見込まれる銀行/投資サービスでは、2023年も店舗の統廃合とともにデジタルシフトが加速することが見込まれる一方で、俊敏性強化を背景にシステム・モダナイゼーションへの取り組みが本格化する見通し。小売は物価上昇など経済的な逆風が予想されるものの、人件費高騰にともなう店内オペレーション強化とデジタル・チャネルにおける顧客体験強化が優先課題となっていることに加え、経済活動再開にともなう反動増もあり、成長率では対象産業中2位となる見通しだとしている。2023年に投資回復ペースが加速すると期待されるのは運輸であり、旅客業での投資再開に加え、2024年4月から適用される時間外労働の上限規制にともなう生産性向上などを背景に、産業別の成長率では2022年の7位から2023年には4位に上昇する見通しだという。

 なお、日本のエンタープライズIT支出は、2022年から2026年までは年平均成長率4.6%で成長し、2025年には30兆円超となると予測されている。

プリンシパル リサーチャー 成澤理香氏のコメント

 COVID-19感染拡大からの企業活動の再開がやや遅れた日本企業において、2022年は多くの産業において投資回復の時期となりましたが、2023年も経済的な逆風が引き続きIT投資に影響を及ぼすことが予想されます。Gartnerの調査では、IT投資増加の傾向は継続しているものの、こうした不確実性の高まりにより、一部の企業では、長期的な視点での戦略投資より短期的に効果の出やすいコスト削減などの投資に目が向いていることが明らかになっています。一方で、デジタル・トランスフォーメーションを競争優位の源泉と捉え、投資を継続する企業も存在しており、今後も二極化が進むことが予想されます。
 短期的に自社の経営環境に応じて優先順位を見直すことは間違いではないものの、中長期的に後れを取らないため、先送りできる課題と持続的に対応すべき課題(デジタル人材の育成やアジリティを高めるIT基盤の構築など)の違いを見極め、将来見込まれる価値観の変化に向けて準備を怠らないことが肝要です。特にデジタル人材の育成については持続的な課題として優先的に検討すべきであり、たとえば、先進企業では俊敏性を高めるため、現場に近い人材も含め、その育成に重点を置いています。こうした取り組みは一朝一夕では追いつけないため、将来的に格差が広がる可能性がある点を認識すべきでしょう。

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