国内最大級のデータ量をもつヤフーが決断した「脱内製」──基幹システム刷新でブラックボックス化を解消へ
第13回:ヤフー 情報システム本部 データマネジメント部長 新井志乃さん

約100のサービスを展開するヤフー。国内最大級のデータ量を武器に、データドリブン経営を加速している。その一環として取り組んでいるのが、徹底したデータマネジメントとブラックボックス化が進んだ基幹システムの刷新だ。情報システム本部 データマネジメント部長の新井志乃さんに、その裏側を聞いた。
データ活用を成功に導く、データマネジメント
酒井真弓(以下、酒井):ヤフーといえば、ビッグデータを徹底活用している企業として知られています。
新井志乃(以下、新井):私はその中でも、経営戦略や財務管理、予算の策定などに関わる管理会計領域のシステム企画とデータマネジメントを担当しています。見たい数字を見たいときに活用できるよう環境を整えたり、目的に合ったデータを取得できるようデータ構造を整備したり、実際に活用する経営企画部門や業務部門のメンバーとコミュニケーションを取りながら進めています。
将来的には、当社が提供する約100のサービスKPIなどの非財務系データと財務系のデータを掛け合わせて、様々な角度から経営状態を可視化し、データ分析に基づいた予測データの提供などを目指しています。
酒井:サービスは約100、社内のデータも含めると、かなり膨大なデータになりますよね。それらを使い勝手良く整備する上で、気をつけていることはどんなことですか?
新井:当社は、事業部門でもSQLを書けるメンバーが多いのですが、書き方によってはシステムへの負担が大きかったり、もっと効率良い処理のための書き方があったりするので、システムに負荷をかけずにデータ処理できるようにサポートしています。
業務部門がExcelでシミュレーションしたものをベースにシステム化の検討を行いますが、Excelデータをシステムに組み込む際に気をつけているのは小数点処理です。Excelは、特に指定していないと一定の桁数になると繰り上げ・切り捨てなどを自動で処理してくれますよね。また、作成する人によって同じような処理でも関数の使い方などで数字の出方が少しずつ変わってきます。実は、サービスの規模が大きくなるほど、このちょっとした小数点処理の違いなどで「結果の数字が全然違う」となってしまうのです。皆さん結構複雑なExcelを組まれるので、一つ一つ紐解きながら、一定のルールに合わせて細かく調整しながら進めています。
酒井:まさに「神は細部に宿る」ですね。
新井:データの可視化・分析には、2014年から全社的に「Tableau」を使い始めました。今では約5,400人がTableauを使って自らデータを業務に生かしています。
酒井:なぜここまで社内に浸透したのでしょうか。
新井:社内にTableauを広めるためのCoEを組成し、「スキルベルト」プログラムを運用していることが大きいと思います。このプログラムでは、メンバー一人一人のレベルに合わせたeラーニングの教材を提供し、各レベルの参加者数を可視化することで、みんなで切磋琢磨しながらスキルアップしています。
酒井:事業部門のITリテラシーが高く、情報システム部門とのシナジーが生まれやすい環境なのですね。逆に、事業部門のITリテラシーが高すぎて、シャドーITなどで困ったことはありませんか?
新井:4年ほど前にCIO(最高情報責任者) が設置されてからは、情報システムの導入を各部門だけの判断で行えないように、ガバナンスを効かせています。事業部門と常にコミュニケーションを取り、信頼関係ができてくると、シャドーITは減っていくのではないでしょうか。「うちの情シスはすぐに相談に乗ってもらえる」と思ったら、事業部門のメンバーは事前に話してくれるようになります。
酒井:なるほど。シャドーITの根底には、信頼関係が構築できていないということもあるのかもしれませんね。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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