DXの目的から考える、情報システム部門の役割──「経営戦略」に則った変革を
第4回:テクノロジーアーキテクチャの策定(2) DXを推進する技術の採用

連載の第4回では、DXにおけるエンタープライズ・アーキテクトの役割と、どのようにDXを進めていけばいいのかについて取り上げます。企業にとってプラスとなるDX実現のためにどんな視点を持つことが必要なのか、どのようにエンタープライズ・アーキテクトがリードすれば成功するのかについて考えていきます。
目指すべきゴールを明確にして全社に共有
DXとは、最先端の新しいデジタル技術を導入すれば実現するようなものではありません。経営戦略に基づき、ビジネス環境が大きく変化する時代で競争優位を確立できるよう、製品、サービス、さらにはビジネスモデルを変革することを目指したものです。特に「デジタル技術を活用したビジネス改革には経営戦略が不可欠」という視点は大変重要になってきています。
DXを実践することで持続的な成長を実現でき、競争力がある企業へと変革していくことこそ、DX実施の目的です。そのために経営戦略と合致した目標を立て、それを実現するために行うべきなのです。場合によっては、既存の情報システム部門とは別に新たなIT実働部隊を組織し、従来とは異なるアプローチで開発に取り組む必要もあります。情報システム部門がDXを実践する場合でも、技術ありきではなく経営戦略ありきで考えるマインドセットの変革が必要です。
では、DXを実践するとどんな変化が生まれるのでしょうか? 具体的な例をあげましょう。ある製造業のお客様は、企業価値向上のために新規ビジネス開発の迅速化を求められていました。そこで、クラウド・テクノロジーを取り入れながら、新たなビジネス・アイデアのトライ&エラーを容易に検証できる環境を早期に実現。従来、同様の取り組みは、ITリソースの獲得のために、オンプレミスでサーバーを調達することから始めなければできませんでした。様々な障壁のあった取り組みもクラウド・テクノロジーを利用することにより、コンピュート資源のみならず、データ分析やAIなどの先進技術をAPIによって容易に連携できるなど、手軽に高度なIT資源を調達できます。そのため、開発プロセスを素早く実践できるようになったため意思決定が迅速化。ビジネスのスピードアップにもつながることで、企業価値向上に貢献しています。

さらに別の製造業のお客様では、従来は外部に発注していたサンプル作りを、3Dプリンタの導入によって社内で済ませることができるようになりました。サンプル作成の時間を短縮でき、クラウド同様トライ&エラーを繰り返すことで製品開発の精度向上や納期短縮などの付加価値を上げることに成功したそうです。デジタル技術によってビジネスモデルは確実に変わっていきます。
変化を実現するために、「クラウドを導入して変化しよう」「どんどんAIを導入しよう」という取り組みは決して悪いことではありません。ただし、ゴールはクラウド導入、AI導入ではなく、マネジメントが経営目標として掲げる変革を実践することです。社内の検討ではつい技術ありきでDXを進めようとしてうまくいかないのであれば、我々のような外部パートナー企業を活用することも手段の一つ。「自分たちが目指すゴールを達成することこそ本当の目的」という基本に戻ることが大切です。そのために経営、情報システム部門、現場のユーザーまで全社的に目指すべきゴールを明確にして、共有しておくことが不可欠だと言えます。
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梶田 智(カジタ サトシ)
キンドリルジャパン クライアント技術戦略 チーフアーキテクト 第三ソリューションデザイン シニア・アーキテクト。IBMソフトウェア事業部門にてプリセールス・アーキテクトとして、金融、製造、流通のお客様を担当。IT運用管理、データ管理、プロセス管理からWatson AIなどを活用した先進的なアーキテク...
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