住友商事グループの中期経営計画「SHIFT 2023」でのデジタル変革
住友商事はAWS上に構築した「SCデジタル基盤(以降、SCDP)」と呼ぶクラウド利用基盤を整備し、ビジネス変革を進めようとしている。同社のビジネス領域は幅広い。「金属」「輸送機・建機」「インフラ」「メディア・デジタル」「生活・不動産」「資源・化学品工業」の6つの事業部門と「エネルギーイノベーション」イニシアティブが国内外で連携し、世界66カ国、事業所数は129カ所、約900のグループ会社と共に幅広くビジネスを展開している。顧客数も約10万社と膨大だ。
住友商事グループはビジネス変革を加速させるため、クラウドへの全面移行を決めた。背景には事業環境の変化がある。昨今の総合商社のビジネスでは、グループ会社主体で進める事業の重要性が高まっている。グループ全体の最適化の視点で事業ポートフォリオの収益性を高め、下方耐性を高める構造改革が急務となってきたのだ。また、テクノロジーも大きく進化した。最近のクラウドテクノロジーの進化は目覚ましい。クラウドの信頼性やセキュリティを疑問視する声は過去のものとなった。
約10年前から、住友商事はIT資産の効率的な運用を目的に、プライベートクラウド環境の構築に取り組んできた。その経験から、住友商事の塩谷渉氏は「中途半端にオンプレミス環境が残っていると、かえって複雑性が増大します。移行期は仕方がありませんが、フルクラウドにしなければ、効率的なアーキテクチャーになりません」と説明した。
グループの中期経営計画「SHIFT 2023」では、「事業ポートフォリオのシフト」「仕組みのシフト」「経営基盤のシフト」の3つの観点から構造改革に取り組んでいる。その中でも重要な柱に位置付けられているのが「DXによるビジネス改革」である(図1)。
推進体制も2023年4月に一新した。それ以前はメディア・デジタル事業部門下にあるデジタル事業本部が主管部門となり、事業とグループのDXの両方を担う体制だったのが、新体制ではデジタル事業本部からDX推進機能を担うDXセンターを分離した。そして、CDOとCIOをリーダーにデジタル戦略推進部とIT企画推進部が共同で、DX戦略立案から、プロジェクト実行、人材育成までを担うDX推進体制を整えた。
住友商事グループ共通のインフラ「SCデジタル基盤」(SCDP)
塩谷氏が紹介した現在の住友商事グループが展開中の取り組みは大きく2つある。1つは冒頭で紹介したSCDPの整備を段階的に進めていくことだ(図2)。SCDPはAWSのパブリッククラウド上に構築したもので、ITインフラの機能を提供するだけでなく、事業ニーズに合わせたSaaSアプリケーション、ノーコード/ローコード開発ツール、必要に応じて人的リソースを提供する。
住友商事のように、グループ会社の多いグローバル企業がDXを成功させるには、グループ会社も利用できる共通の環境が必要になる。「現在はその整備のためのフェーズ0を終え、現在は次のステップのフェーズ1に取り組んでいるところ」と塩谷氏は状況を説明する。フェーズ1は、グループ個社の事業収益の改善に貢献する取り組みの実行を想定しており、SCDPへの要件も、その実現を支える環境としてのものになる。さらに、住友商事ではフェーズ2で業界全体をリードするような取り組み、その先のフェーズ3では業界を超えるスケールの大きな取り組みへと変革のスコープを拡げていくことを計画している。SCDPもその計画に歩調を合わせて強化していく。
塩谷氏は「グループ会社それぞれがデジタル化を進める上で有用なツールを、迅速かつ安全に利用できることが魅力でした」と、AWS上にSCDPを構築することを決めた理由を説明した。SCDP構築で住友商事がAWSを採用した理由として大きいのは、グループ会社のSCSKがAWSの知見を豊富に持っていることだ。住友商事の業務システムのほとんどの運用を担当するなど、SCSKは住友商事と長年にわたる良好なパートナー関係を維持してきた。クラウドテクノロジーに関しても、2017年から住友商事のIaaS環境の保守、運用を担当した実績がある。塩谷氏と共に登壇したSCSKの佐藤利宏氏は、その関係を「AWSとは2012年に東京リージョンを開設した時からのパートナーで、現在は最も厳しい要件を満たしたAWSプレミアティアサービスパートナーの1社として認定されています」と自信を示した。
パートナーの知見以外では、今後のデータドリブン経営の実践に向けて有用なクラウドサービスをAWSが提供していることも採用理由の1つになった。グループ全体のビジネス変革を支えるインフラともなれば、運用効率だけでなく、高い水準のセキュリティとガバナンスが求められる。そこで、住友商事とSCSKは、AWS Well-Architectedフレームワークが提供するベストプラクティスに基づき、Amazon Guard Duty、AWS Security Hubなどを利用し、グループ全体でDXに取り組めるようSCDPのセキュリティを強化した。さらに、SCDP 上で稼働する各システム共通で必要な監視、データ連携、データ管理などの機能をメニュー化して提供することで、クラウド利用の検討時間短縮を図ろうとしている。両社はオンプレミス環境で稼働している業務システムを、順次SCDPに移行していく。