Web3のベースとなるブロックチェーンの可能性
──Web3(ウェブスリー)は、次世代インターネットとも呼ばれています。最近では、生成AIの登場でやや影が薄くなったものの、その取り組みは依然として注目されています。しかしその本質はわかりにくいのではないでしょうか?
齋藤 正勝(以下齋藤):Web3は、特定のテクノロジーを指すものではなく、インターネットの「次の段階」への進化を表す概念です。初期のインターネットは、静的なHTMLのWebをユーザーが閲覧するだけのものでした。このWeb1の時代から、ユーザー自身がコンテンツを作成し、共有する段階のWeb2に進化しました。さらに進化し、ブロックチェーンやAI、機械学習の進化を背景にしたテクノロジーの総称が、Web3といえます。
Web3のベースとなるのは、2008年にサトシナカモトという謎の人物によって発表されたブロックチェーンです。ビットコインに見られるように、仲介者を介さない資産のやり取りや、個人間での価値のやり取りが可能になりました。このブロックチェーンとNFT(非代替性トークン)を、企業のシステムに活用していこうというのが、ミンカブの取り組みです。
──ブロックチェーンは、自律分散型、非中央集権型だといわれます。日本の場合、政府がWeb3を振興していますが、非中央集権的なWeb3を、政府自体が押し進める理由は何でしょうか?
齋藤:過去日本が、インターネットやデジタルの政策で失敗したことの反省があるのだと思います。Web1でも、Web2でも、日本企業は勝てなかった。インターネットの勃興期には、日本は検索エンジンなどでも頑張っていましたが、著作権が問題化されたことで規制がかかり、国内のベンチャーも大手通信やIT企業もインターネットの世界で後れをとってしまった。
Web1初動の誤算がインフラ力の差を生み、Web2で圧倒的な差がついてしまい、GAFAなど支配的なプラットフォーマーが台頭してきた。LINEやヤフー、楽天、メルカリなど国内でのビジネスは生まれましたが、グローバル市場での競争力が築けていません。
政府系の会議などで必ず出てくる話題は、「日本はアニメなどのコンテンツは強いのにビジネスではすべてプラットフォーマーに持っていかれる」というジレンマです。こうした課題意識から経済産業省の若手による「Web3.0政策推進室」などの取り組みが生まれています。現在の生成AIの政府の積極姿勢も同様だと思います。
──Web2がWeb3に移行することで、日本企業が再興する可能性はあるのでしょうか?
竹田 潤(以下竹田):Web2の世界では、プラットフォーム企業がIDとパスワードという個人のアカウントをもっていたのですが、Web3では、個人が中心という世界観です。それぞれのサービスが仮想的につながり、サービスになる。プラットフォーマーではなく、個人が前提になるので、新しい参入の可能性が生まれる期待があるわけです。
──エンタープライズITの業界でも、5、6年前はブロックチェーンの可能性が語られ、実証プロジェクトなどが生まれましたが、多くはPoC止まりでした。
齋藤:原因の1つには、企業ITのエンジニアの世界に、ブロックチェーンが浸透しなかったことがあるのではないでしょうか。Web3の世界とWeb2の世界とで完全に分断が生まれてしまった。企業ITのエンジニアが、ブロックチェーンにメリットを感じなかったといえます。ブロックチェーンを企業のシステムに導入し、価値を生むことが出来て、エンジニア個人に対してインセンティブが働く仕組みが提供されれば、普及する可能性はあります。