IBM watsonx:AIファースト時代における基盤モデル活用と総合的な運用戦略を促進

日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリスト 田中孝氏
2023年5月に行われた年次カンファレンス「Think 2023」で、企業の最先端AI活用の取り組みを促すため、IBMはIBM watsonx(以降、watsonx)を発表した。watsonxの末尾の「x」は、掛け算的に企業の活用拡大や取り組みをスケール(加速)させたいという意味が込められている。IBM watsonxの提供に至った背景として、田中孝氏は「AIファースト」へのトレンドの変化を指摘した。

「これまでは既存のビジネスアプリケーションにAIを追加的に組み込み、ビジネスを変革するアプローチだったものが、今後はAIを使う前提でビジネスを再設計するAIファーストに変わることになるでしょう」と田中氏は述べ、現在はAIファースト時代に向かう過渡期にあるというIBMの予想を紹介した。
AIファーストへの転換を促すテクノロジーの中核にあるのが基盤モデルである。これまではビジネスが想定するユースケースごとにAIモデルを開発する必要があった。対して、基盤モデルを使うアプローチでは、これまで同様に機械学習の手法を使うものの、汎用的なモデルの開発後、ユースケースに合わせて追加学習を行い、目標とする精度の達成までチューニングを行う点が異なる。企業にとっては、自社でゼロからモデルを開発する必要はなく、外部の組織が開発した基盤モデルの選択から取り組みを始めることができる。
時短効果が期待できる反面、モデルをビジネスアプリケーションにデプロイするまでのプロセスが変わってくる。まず、選択した基盤モデルが自社で想定するユースケースに適しているかを検証しなくてはならない。次に、不適切な入出力を認めないよう、信頼性を担保することも必要だ。さらに、昨今の基盤モデルの規模は巨大化する傾向を踏まえると、規模の大きいモデルを選択した場合の計算環境に要するコストも比例して高くなることも認識しておきたい。そうなると、基盤モデルを利用する前提の環境やサポートが必要になる。watsonxはそのための製品として登場した。

現時点におけるwatsonxのコンポーネントは、企業がAIモデルを選択し、カスタマイズして運用するための「watsonx.ai」、カスタマイズのための学習データを集約して管理するデータストアになる「watsonx.data」、開発したモデルをモニタリングし、高度なガバナンスで運用するための仕組みを提供する「watsonx.governance」の3つがある。3つのコンポーネントは、クラウド、オンプレミスを含むハイブリッドな環境で活用でき、現時点ではwatsonx.aiはIBM Cloud上のSaaSとして、watsonx.dataはIBM CloudもしくはAWS上のSaaS及びソフトウェア製品として提供する。watsonx.aiとwatsonx.dataは2023年7月に提供開始済みで、残るwatsonx.governance は2023年後半の提供開始を予定している
