デジタル時代の弊害
数ヵ月前のことになります。ある日オフィスで仕事を終えた後、しばしその日の仕事と、次の日の予定について思いを巡らせていました。1日の仕事を振り返りながら、何のためにどれだけのアプリケーションやツールにログインし、使い分けたのかを考えていると、あらためて「面倒なことをしているものだな」という感情が湧いてきました。こんなに多くのツールを使い分ける必要性はあるのだろうかと、疑問に感じたのです。
SaaSの台頭とともに、我々の日常業務は格段に楽になりました。SaaSの利便性を得るために準備しなければならないことも以前からすると格段に減り、ほとんど“労力ゼロ”と言って良いほどです。Webで検索すれば、ほぼすべての事柄へ対応するSaaSが見つかります。そして、登録して使い始めれば大体のことは、そこそこうまくやれるようにベストプラクティスが示されている。
こうして多様なツールが世の中に溢れ、我々は便益を得る一方、業務の断片化や煩雑さが増してきました。これは私だけではなく、多くの方がそう感じているのではないでしょうか。
実際に、私は会社として利用するシステムの数を大幅に削減しています。何が必要で、何が必要でないのか。今後、どうすれば必要でないものを導入せず、シンプルに保ち続けられるのか。これらはとても大事なことです。
そうした取り組みの中で詳細に見ていくと、必要だと考えていたツールの中にも不必要なものが見つかってきます。たとえば、社内チャットなどのコミュニケーションツールにおいて、「参加しているスレッドの数が多すぎる」と感じることはないでしょうか。参加しなければならないスレッドではないけれど、一度入ったのでそのままにしている。たまにやり取りをするのでそのままにしている。誰かに招待されたから入っている……理由はさまざまでも、“負債”が日々溜まり続けているような状態と同じではないでしょうか。
私の場合、ある日にスレッドを80%以上減少させる決断をして、実行しました。その選定と実行にかけた時間は、わずか30分程度だったと思います。至極簡単なことですが、コミュニケーションの効率が大幅に向上しました。そして、社員にも同様の取り組みを推奨しています。
考えてみれば、カスタマーサポートにおいても似たような、非常に象徴的なケースがありました。たとえば、日常的にCRMツールを使って顧客情報を管理し、同時にコミュニケーションツールでチームと連携をとる。それらに加えて、データ分析ツールで市場動向を分析して……といった具合に、多くのアプリケーションの切り替えと活用で消費される時間は、想像以上に膨大です。
このようなツールの増加にともない、もう1つ大きな問題として「データのサイロ化」も引き起こされます。データがツールごとに孤立してしまうと“データの真価”を発揮できず、現在の状況を正しく導き出すことすら難しくなります。顧客データやサービス利用データ、社内アクションのデータ、マーケティングデータ、営業活動のデータなどが一貫したフローとして機能していないために有効なデータとして活用できず、ビジネス機会を逃がす恐れも多分に生まれてきます。これは業務の効率化を真剣に追求する私たちにとって、大きな課題と言えるでしょう。