「グローバルAI競争」時代の次世代ITインフラについて考える 日本にこそ“分散型”アプローチを
【第3回】災害大国の日本が目指すべき方向性

連載の3回目となる本稿では「ITインフラ」をテーマに、現在の課題と“未来のIT環境”のあるべき姿について考えてみましょう。現代社会において、テクノロジーは単なる便利なツールではなく、私たちの生活を根底から支える存在になっています。ITインフラの重要性とそれがもたらす可能性について理解を深めることは、自然災害の多い日本で暮らす私たちにとって特に重要です。
「ITインフラ」への依存と脆弱性
少し前のことになりますが、世界中でパブリッククラウドのシステムダウンという大変な事態が発生したことを憶えているでしょうか。この一件は、世界中の数多くのウェブサービスに同時に影響を与え、わずかなサービス停止がどれほど広範囲な影響を及ぼすのかを私たちに教えてくれました。瞬間的に「何もできない」状態に陥った私たちは、デジタルインフラストラクチャへの日常的な依存と、その脆弱性に気づかされたのです。
この出来事は、たとえ一時的であったとしても、現代社会のテクノロジーへの依存度がどれほど高いかを示しました。忘れてしまいがちですが、私たちが日常的に利用しているデジタルサービスは非常に複雑なシステムに支えられています。
その一方、現実問題として、前述したインフラ依存問題の完全な解決が非常に困難であることも事実です。人々はリスクを理解しながらクラウドベースのGPUリソースなど、最先端技術を利用することでビジネスを拡大していきました。特にクラウドコンピューティングはサービスが充実しており、それらを利用することで新たなサービスを構築するスピードも速くなるため、多くのSaaS企業がパブリッククラウドを選択しています。
日本こそ「持続可能性」と「レジリエンス」を
筆者が所属するAI inside では、パブリッククラウドを活用しつつもAIモデルの訓練に必要となる膨大な計算能力、ITインフラでの課題、コストの高さなど、複数の問題に直面していました。そうした状況下、自社開発のハードウェアに基づくデータセンターの構築を進めました。これは一般論に反していますが、単にコスト削減を目指すだけではなく、AIサービスの品質と性能を最大化するための戦略的かつ自然な選択です。計算リソースのコントロールを強化することは、AIを利用する上での効率的な学習、安定したサービス提供を実現するために欠かせません。
このインフラ構築の経験は、私にITインフラの持続可能性とレジリエンスについて再考させる機会を与えてくれました。現在のITインフラは、集中型クラウドサービスに大きく依存しており、一時的な停止がビジネスや教育、日常生活に甚大な影響を及ぼすことがあります。特に日本のように自然災害のリスクが高い地域では、地震や台風などがITインフラに常に潜在的な脅威をもたらし、計算リソースの確保や電力供給の継続性に影響を与えるでしょう。
では、私たちはこれらのリスクを理解した上で、未来に向けてどのような行動を取るべきでしょうか。より持続可能かつレジリエンスの高いITインフラを構築し、デジタル社会の安全性と効率性を高めるには何が必要なのでしょうか。
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渡久地 択(トグチ タク)
AI inside 株式会社 代表取締役社長CEO2004年より人工知能の研究開発をはじめる。以来10年以上にわたって継続的な人工知能の研究開発とビジネス化・資金力強化を行い、2015年同社を創業。2019年12月に東証グロース市場に上場。代表取締役社長CEOとして経営・技術戦略を指揮し、事業成長を...
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