古くからのSAP ERP利用企業のCDOやCIOにとって、SAP S/4 HANAへの移行をいつどのように実施するかは悩ましい問題である。S/4HANAへの移行にあたり、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)を採用し、ERP本体はクリーンに保ち、アドオンは本体の外で開発する「Side-by-Side開発」を推進しているのが日立ハイテクである。2023年11月2日にインド・バンガロールで行われたSAP TechEdの基調講演にも登壇し、取り組み内容を共有した酒井卓哉氏に詳細を聞いた。
ERP移行は事業統合以来の悲願

日立ハイテクは、2001年10月に、日立製作所グループのエレクトロニクス専門商社であった日製産業と、日立製作所の計測器グループ、半導体製造装置グループが事業統合をしたことを機に、日立ハイテクノロジーズとして発足した会社である。以来、解析および分析のテクノロジーを強みに、臨床検査用装置、半導体製造装置、電子顕微鏡などのビジネスを展開してきた。2020年2月に社名を現在の日立ハイテクに改め、同年5月から日立製作所の完全子会社として再スタートを切った。
その日立ハイテクがERP移行プロジェクトを開始したのは2018年4月、プロジェクトは2023年11月現在も続いている。そのゴールはデジタルでビジネス変革を実現することにある。2017年12月にSAP ERP Central Component 6.0(ECC 6.0)からS/4HANAへのアップグレードを役員会に上申したところ、移行を目的とするのではなく、「業務改革を進めるように」と社長から強く求められたことが発端になった。IT部門が進めるプロジェクトは、ともすればソフトウェア製品を稼働させることが目的になりがちだが、「業務改革のための移行という本質を見失わないようにしてきた」と酒井氏は話す。
業務改革の焦点は「製販統合」である。2001年の経営統合時点で、旧日製産業と日立製作所の両方がSAP ERPを利用していた。しかし、販社と工場で役割が完全に違っていたため、基本的にはお互いのことに口を出さない方針で、必要に応じてEDIで連携する仕組みが機能していた。
背景には、日立ハイテクのビジネスが、顧客との商談を通じて仕様を決めてから商品を生産する受注生産が主流だったこともある。受注生産の場合、在庫リスクがない反面、商談が成立するまでの過程で発生するさまざまな仕様変更への対応が頻繁にある。関係部署は、受注でき次第すぐに生産に入れるよう、商談中も各所に掛け合って手配を進めているが、平均リードタイムが6ヶ月とどうしても長期化してしまう。もし、受注後にキャンセルされでもすると、多品種少量生産の商品を扱っているため、転売もできない悩みがあった。
リードタイム短縮という根本的なビジネス課題を解決するため、日立ハイテクが考えたのが生産のモジュール化を進め、中量産(量産と多種少量生産の折衷)に切り替えることであった。S/4HANAの導入には、デジタル化を進め、顧客のデマンドが発生したところから、商品仕様の決定、受注、商品を生産するまでの一連のプロセスの透明性を高め、営業でも調達でも生産管理でも、誰もがいつでもデータを確認し、仕事をできるようにする狙いがあった。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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