本編37ページ・別添150ページのガイドライン、どう対応する?
これまでに政府から示されたAIガイドラインには、総務省による「AI開発ガイドライン」(2017年)と「AI利活用ガイドライン」(2019年)、経済産業省による「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」(2022年)が存在する。しかし、生成AIの台頭などによる急速な社会の変化に対応するため、既存ガイドラインの統合・アップデートが進められることになり、2023年12月に「AI事業者ガイドライン案」が完成。パブリックコメントの公募を経て、2024年3月に正式なガイドラインとして公表される予定だ。
AI事業者ガイドライン案は、AI活用に対して一律に規制を課すものではない。経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 情報政策企画調整官 橘均憲氏は「リスクの程度に応じて対応を考えてほしい。そのためにはAIガバナンスの構築が重要」だと説明した。
ガイドラインには目指すべき基本理念や必要な対応などがまとめられているが、本編37ページ、別添150ページ以上と非常にボリュームが多く、すべてに目を通し、かつそれに対応するにはそれなりの工数が必要となる。セミナーに先駆けてJDLAが国内AI事業者へヒアリングを行ったところ、「利益が40%減るどころではない。到底AIによるイノベーションは起きない」といった意見も見られたという。国内投資家からも「企業規模を加味したルールづくりが必要」との声が上がったとした。AI事業者はコストや工数を加味した上で、対応を検討する必要があるのだ。
「AI事業者」が示す範囲の曖昧さ
ヘルステックスタートアップ企業UbieでPublic Affairs(政策渉外)を担当し、業界団体の日本デジタルヘルス・アライアンス(以下、JaDHA)での活動も行う島津真夢氏は、ガイドラインに対するスタートアップ企業の課題として「情報収集が難しいこと」「優先順位が不明瞭であること」の2つを挙げた。
スタートアップ企業では、Ubieのように政策渉外を行う専任の担当者を置かず、プロダクトやマーケティングの担当者がその役割を兼務することが多いと島津氏。「今回のガイドラインはボリュームがあり、読み込むだけで時間がかかるので、もう少しライトに情報収集できるポイントがあると嬉しいですね。JaDHAの中でも、ガイドラインのどの部分から対応を始めるか迷うといった声もあったので、優先順位が可視化されるといいと思います」と述べた。
ディープラーニングを専門的に取り扱うベンチャー企業ABEJAの代表取締役CEOで、JDLAの理事も務める岡田陽介氏は、「AI事業者」という言葉の“難しさ”に言及。現在のAI事業者ガイドライン案では、事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに分類し、それぞれにおいて重要な事項が整理されている。「AI事業者と一口に言ってもその範囲は広いです。Chat GPTをAPI連携で自社サービスに組み込むといった簡易的な活用を行う企業もあれば、自分たちでデータを収集してLLM(大規模言語モデル)を独自開発している企業もあり、温度感も様々。自分たちが開発者、利用者、提供者のいずれに当たるのか、迷う企業も多いと感じます」と見解を示した。
こうした意見を受け、橘氏は「同じAI技術を使っていても使う用途でリスクは変わってくるはず。サービスから生じるリスクを見極め、“リスクベース”で対応してほしいと思っています。それでもハードルが高いと感じる場合は、JaDHAのように業界・分野別で議論し、特定の分野に則したガイドラインを検討していくことも一つの解になると考えています」と答えた。