ガートナージャパン(以下、Gartner)は、オンプレミスの将来に関する最新の展望を発表した。企業は現在のオンプレミス・テクノロジが衰退していくことを前提に、プラットフォームとしての「インフラのグランド・デザイン」を再考する必要があるという。
日本におけるユーザー企業のインフラストラクチャとオペレーション(以下、I&O)に携わる部門の多くでは、いまだにクラウドかオンプレミスかを検討しており、OSのサポート切れやハードウェアの老朽化のタイミングだけに反応し、個別のテクノロジを場当たり的に導入してハードウェア・コストをわずかに削減しているといった状況や、I&O部門外でデジタルトランスフォーメーションが推進されている状況がみられるとしている。
同社ディレクターアナリストの青山浩子氏は次のように述べている。
「近年、新たなテクノロジや手法、アプローチに加え、クラウド・サービスが選択肢としてある中で、新興テクノロジ・トレンドによる破壊と革新にともなう市場再編も多くの領域で発生しています。I&Oリーダーは、旧来テクノロジを継続維持するだけのOldオンプレミスから脱し、ビジネス・イノベーションに資するプラットフォーム戦略へと進むことが求められています」
2027年までに、オンプレミスを継続しているユーザー企業の70%は、Oldオンプレミスのベンダーが市場からいなくなっていることにようやく気が付き、途方に暮れる
従来型のオンプレミス(Oldオンプレミス)のみをサポートするベンダーは市場から消滅しつつあり、国産ベンダーは、サーバはもとより、メインフレームから撤退し始めている。一方で、外資系ベンダーはNewオンプレミスを推進している、もしくはVMwareのように他企業に買収されリスタートのフェーズにあるなど、かつてない転換の時を迎えているという。
同社ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリストの亦賀忠明氏は次のように述べている。
「こうした状況は、業務システムはもとより、社会と経営の安定を支える重要な基幹系システムの将来が不透明になりつつあることを表しており、ほとんどの日本企業にとって、事態は相当に深刻であるといえます」
従来の延長としてのオンプレミスを利用しようとしても、それを支えるテクノロジがなくなるため、ユーザー企業は代替テクノロジを検討せざるを得なくなるとのこと。代替テクノロジとして最も有力なのはハイパースケーラーだが、利用するには新たなスキルだけでなく、時代に即したマインドセット、スタイルといった新しいケイパビリティが必須となる。時代変化への気づきが拡大する中で、今後、多くの企業でそれらを獲得しようという動きが加速していくだろうとGartnerはみている。
亦賀氏は次のように述べている。
「『今付き合いのあるベンダーやシステム・インテグレーターが、現在のテクノロジをこれまでと同様にサポートし続けてくれる』と考えるのは大きな誤りです。テクノロジの衰退にともない、ベンダーやシステム・インテグレーターにおいてもそれを扱うエンジニアが減少し、『誰も支える人がいなくなる』というリアリティを深刻に捉える必要があります。今後、ハイパースケーラーの理解は不可欠となるため、スキルの早期獲得に向けた施策の推進や、次世代対応に向けた既存要員の強化が必須となります。世の中が根本から変化していることを理解し、2030年以降のNew Worldに向けて、スーパーパワー・テクノロジ(想像を超えたテクノロジ)と新たなテクノロジ人材による力強い次世代のビジネス戦略の立案と展開をスタートする必要があります。そのためには、現在のOldオンプレミスのマイグレーションだけに気を取られるのではなく、次世代のビジネス・アーキテクチャまでも視野に入れた産業革命への対応を企業戦略として推進する必要があります」
2027年までに、大企業の70%において現状維持とコスト削減を主目的とするオンプレミス・インフラは廃止される
オンプレミスの老朽化対応やインフラ更改の際には、いまだにコスト削減が重視されている。一部に新規テクノロジを取り込むことはあるものの、現状維持をベースとした機能改善だけでは、ビジネス成果へのインパクトは小さいままとなる。一方、Gartnerの調査からは、レガシー・インフラや旧来のスタイルのオンプレミス環境で長きにわたって使い続けてきたテクノロジに対しては、日本企業のCIOの40%以上が投資を減らす意向を示していることが明らかになっているという。
青山氏は次のように述べている。
「新たな時代の潮流に乗り遅れたまま何も対策を講じないという猶予はもはや許されない状況になりつつあります。企業のインフラは、現状維持を目的とするインフラから、自社のビジネス上の競争優位性に資する、革新的テクノロジを時流に沿った形で取り込めるプラットフォームへの転換が求められています」
I&O部門は、従来型インフラの維持戦略において、ビジネス成果に対する有効性の検証と説明責任をより一層求められるようになる。また、ビジネス部門におけるクラウド・サービスの利用意向もさらに高まり、I&O部門がコントロールできない、ビジネス部門の利用者主体で導入されたプラットフォーム・インフラが急増する可能性があるとしている。
青山氏は次のように補足している。
「I&Oリーダーは、オンプレミスの従来型インフラについて一度はゼロベースで考え、企業のビジネス目標やインフラ利用者のニーズに基づいて、どのような価値を提供すべきか、あるいはどのような価値が求められているかを明確にする必要があります。また、老朽化したインフラの『終活プロジェクト』を立ち上げ、システム・インテグレーターやベンダーから受ける提案をうのみにせず、自社のサービス基盤として求められるテクノロジや手法は何かを自律的に判断できるようにする必要もあります」
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