デジサートが見据える「デジタルトラスト」の未来とは
PKI(公開鍵基盤)を用いたセキュリティソリューションを提供するデジサート社は、2024年6月3日に東京で記者会見を開催し、同社CEOのアミット・シンハ氏が登壇した。デジサートは、機密データの暗号化や通信の安全性確保に用いられるSSL/TLSの認証局として事業を展開してきたが、近年ではIoTデバイスの急速な普及を追い風に、急成長を遂げている。
「デジタルトラストの市場規模は100億ドル以上に上ると見込んでおり、当社は、近い将来に10億ドル以上の年間経常収益(ARR)を目指しています。そのために、昨年はDigicert ONEというプラットフォームに関連して32件の特許を出願しました」とシンハ氏は語る。
Digicert ONEは、同社の業績をけん引する主力製品だ。一般企業が発行する5万以上のデジタル証明書を1つのプラットフォーム上で一元管理できるのが特長で、Webサーバーやクラウドワークロードなどに分散するデジタル証明書のライフサイクル管理を自動化できる。
デジタルトラストに影響する3つの変化とは
シンハ氏は、デジタルトラストの未来を形作る3つの大きな変化として、「量子コンピュータ」「生成AI」「IoTデバイスの普及」を挙げた。
「現在のPKIで使われている暗号化アルゴリズムは、大きな桁数の任意の数を素因数分解するなど困難な数学的問題に基づいていますが、量子コンピュータが実用化されれば、これらのアルゴリズムは脆弱になります。そのため、量子コンピュータ時代に備えた新しい暗号化方式への移行が急務となっています」
米国立標準技術研究所(NIST)と共同で「耐量子コンピュータ暗号」と呼ばれる新しい暗号化方式の標準化を進めているというデジサートでは、2024年9月26日を「世界量子準備の日」と位置付け、耐量子コンピューター暗号への移行を呼びかけている。
IoTデバイスのセキュリティ対策に注力
一方、IoTデバイスの爆発的な普及に伴い、デバイスのセキュリティ対策にも注力している。同社が実施した調査によると、IoTデバイスの87%が暗号化されていない通信プロトコルを使用しているという。
「医療機器などのIoTデバイスでは、信頼性が安全性に直結します。そのため薬剤投与の装置のスマートインフュージョンポンプやグルコースモニターなどの医療機器メーカーと協力し、正規のソフトウェアが動作していることを保証するソリューションを提供しています」と、シンハ氏は語る。
同社は、IoTデバイスのライフサイクル全体にわたるセキュリティ、コンプライアンス、プライバシー保護を実現する「Device Trust Manager」の提供を開始。設計開発から製造、導入後のアップデートまで、デバイスのライフサイクル全体をカバーするという。