コネクティッドカーから収集する膨大な車両データを活用へ
トヨタ自動車は現在、業務のデジタル化を積極的に進めることで社内の情報格差をなくし、グループの従業員全員が同じ方向を向いて仕事に打ち込める環境の実現を目指しており、そのための目玉施策の1つに「データ利活用の促進」を掲げている。
特に近年では、自動車に無線通信モジュールを搭載してクラウドと通信することで様々なサービスを提供する「コネクティッドカー」が急速に普及しており、この仕組みを通じて膨大な車両データを取得できるようになった。トヨタ自動車でも2016年に発表した「コネクティッド戦略」に基づき、2019年以降に出荷されるすべての新車に「DCM(Data Communication Module)」と呼ばれる無線通信モジュールを搭載しており、現在では1台/1日当たり約3Mバイト、日本国内を走るすべての車両を合わせると年間2Pバイト以上の車両データがネットワークを通じて同社のクラウドデータセンターにアップロードされている。
これらのデータの中には「ハンドルの操舵角」「ブレーキ回数」といったドライバーの運転操作に関するデータや、「外気温」「高度」「路面」といった車を取り囲む環境に関するデータが多数含まれている。また最近では、高度運転支援機能を備えた自動車に搭載されているカメラの画像データのアップロードと活用も始めているという。
これらのデータを有効活用することで、自社の車両設計・開発の効率化に役立てたり、故障の予兆を検知したりして最適なタイミングで車両をメンテナンスするなど、様々な業務において効率化や改善の可能性が広がる。さらには社内だけでなく社外に対しても、車両データを解析することでドライバーに対して運転アドバイスを行ったり、保険会社にデータを提供してテレマティクス保険商品の開発に役立てたりといったように、クルマ社会全体の発展にデータを有効活用できるようになる。
このように大きな可能性を秘める車両データだが、坪田氏によればトヨタ自動車では長らくこれらのデータを十分に活用できずにいたという。
「車両データが取得できていることは分かっていても、それがどこにあるのか分からない、あるいは使い方がよく分からないという声が社内で多く上がっていました。またデータの収集に多くの時間と手間を要するほか、せっかく取得してもそのままの形では業務で活用しづらいといった課題もありました。そこで、誰でも簡単に、かつ安全・安心にデータを使える環境を整備する必要があると考えていました」(坪田氏)
基幹システムのデータも統合して、全社共通基盤を構築
一方、同社は基幹システムを中心に約800もの業務システムを社内で運用しており、これらのシステムでも日々膨大な量のデータが生成・蓄積されていた。たとえば企画・設計部門では大量の図面データや評価データが蓄積されており、また製造部門でも製造条件や検査結果などに関するデータを日々扱っている。同様に販売部門やメンテナンス部門でも、日々の業務の中で多種多様なデータを扱う。
データ利活用を真に促進するためには、車両データだけでなく、これら基幹システムで管理されているデータについても、誰もが簡単かつ安心・安全にアクセスして有効活用できる環境が求められていた。そこで同社は、これら多種多様なデータを単一のインタフェースから容易に利用できる「全社データプラットフォーム」の仕組みを新たに構築することにした。
まず車両データに関しては、自動車からネットワーク経由で送られてきた各種データをクラウド上で収集し、ユーザーやアプリケーションが利用しやすい形に加工・整形する「コネクティッド データプラットフォーム」を新たに構築。これをクラウド上の「モダンIT環境」で運用することとした。一方、既存の基幹システムの大半はオンプレミス環境で稼働していたため、これらを「レガシーIT環境」と定義し、クラウドのモダンIT環境とは分けて運用することにした。
ただし、構成管理やID管理、認証基盤、ログ管理といった全社共通のインフラ機能に関しては「共通IT管理基盤」として共通化し、ユーザーが実際にデータを検索・参照したり分析したりするためのフロント機能についても全社共通のインタフェースを新たに設けた。