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LIXIL、894もの“巨大レガシーシステム”刷新に再挑戦 成功へのカギを握る「400の統合テスト」

第27回:LIXIL Japan Sale Front DevOps. 主幹 深沢由子さん

  今まさに佳境を迎えるLIXILの基幹システム刷新プロジェクト。5社が統合して誕生した歴史的背景から、大規模かつ複雑を極める基幹システムは、894システム、14,140インターフェースに及び、400ものテストシナリオが必要だったという。金属基幹システム刷新のプロジェクトオーナーで、統合テストも統括する深沢由子さんに、プロジェクトの裏側を聞いた。

手に負えないほど肥大化したレガシーシステム刷新は必然

酒井真弓(以下、酒井):深沢さんは今、基幹システム刷新プロジェクトの真っ只中とうかがいました。

深沢由子(以下、深沢):そうなんです。2020年3月にキックオフし、まさに佳境です(2024年8月取材時点)。

 SAPの導入を決めた理由は、大きく4つあります。1つ目は、システムを構築した技術者が退職し、ブラックボックス化が進んでいること。2つ目は、業務の多様化に応じて都度新しい機能を追加してきたため、システムが肥大化してしまったこと。3つ目は、機能の重複と分散によって一つ一つのシステム、そしてシステム間の連携がかなり複雑化してしまったことです。

 4つ目は、使用している開発言語の衰退です。具体的にはCOBOL。また、ASP.NETやVBAなどは既にコンパイルできないバージョンもあります。これらを扱えるIT技術者の確保は年々厳しくなっていて、システムの改修や更新も難しくなっています。その結果、894システム、14,140インターフェースにまで膨れ上がっていたのです。

酒井:聞いたことがない規模ですね……。SAP導入は必然だったように感じますね。

深沢:アジャイルかつ継続的にビジネスに貢献していくために、業務とシステムをシンプル化・標準化し、ガバナンスを強化することが最優先事項になりました。

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LIXIL Japan Sale Front DevOps.  主幹 深沢由子さん

酒井:深沢さんは、このプロジェクトでどんな役割を担っているのでしょうか。

深沢:2021年から、金属基幹システムを刷新するプロジェクトオーナーを務めています。ここでいう「金属」とは、LIXILの事業分野の中で、水回り製品ではなく、建具やサッシ、ドア、インテリア製品などを指します。2024年2月には、そのインテリア製品の一部で、SAP導入を達成しました。

酒井:なぜ、複数の基幹システムを別々に刷新するのでしょうか。この際、まずは統合してしまうのが効率的なのではと思ってしまうのですが。

深沢: たしかに、その方が効率的に思えるかもしれません。しかし、実際にはいくつかの理由で別々にシステムを運用しています。

 まず、金属製品と水回り製品では、製造プロセス、物流の流れ、在庫管理の方法などが大きく異なります。そのため、それぞれに最適化されたシステムが必要になるのです。歴史的な背景も大きな要因です。LIXILは、2011年に5社が統合して生まれた会社で、それぞれに長い年月をかけて最適化してきた基幹システムが存在していました。実は12年前、これらすべての業務をSAPのテンプレートに合わせようと大規模な統合プロジェクトがスタートしました。通称「L-Oneプロジェクト」です。ただ、これはうまくいきませんでした。業務プロセスを標準化するには予想以上に膨大な業務変更が必要で、当時はまだ現実的ではないと判断せざるを得なかったのです。

 そこから、システムを整理、刷新、統廃合と順序立てて進めていく方針が固まりました。今回のプロジェクトでは、無理なものは無理に載せようとせず、極力シンプル化してアドオンする形で進めています。

酒井:こうしたレガシーシステムの課題に関して、周辺システムを開発する方針とうかがいました。

深沢:私が担当している中では、納期短縮と小口変更のワークフローを全社開発基盤の「OutSystems」を使って作り直しています。OutSystemsは、ローコードでありながら開発の自由度も高いと感じますし、テストやデプロイを自動化する機能も標準装備されているんです。これが、システム開発ライフサイクル全体の生産性向上につながっています。

 もう一つ生産性向上に欠かせないのが、専門のナレッジチームの存在です。開発や保守に必要なアプリケーション開発、インフラに関する知識を集約し、ナレッジや、認証認可のような共通化できる機能を共有しています。これには大きなメリットを感じています。

次のページ
400ものテストで相次ぐ後戻り……統括として思い切った決断

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この記事の著者

酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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