「リフト」はできても「シフト」ができない?
クラウドやモバイルデバイス、さらにはAIなどの最新技術を活用したソリューションの普及にともない、ユーザーがITシステムに求める利便性のレベルも上がってきています。このような状況下で生き残りをかけて奮闘する企業にとって、レガシーシステムは依然として足を引っ張る存在でしょう。
レガシーシステムの問題は、2018年に経済産業省が発表したDXレポートで「2025年の崖」というワードが用いられたことをきっかけに広く認知されるようになりました。これは、モダナイゼーションの重要性がより認知されるようになったきっかけともいえます。
こうした問題に対し、ガートナーやAmazon Web Services(以下、AWS)はモダナイゼーションを推進するための具体的な方法をぞれぞれ提唱しました。これらは企業において、しばしばレガシーシステムをモダナイズするためのアプローチを決定する際の指針となっています。ガートナーは、レガシーシステムのモダナイゼーションが推進される要因を踏まえ、「カプセル化」「リホスト」「リプラットフォーム」「リファクタ」「リアーキテクト」「リビルド」「リプレース」の“7つの選択肢”を提唱。これを踏まえ、AWSは、レガシーシステムからクラウドへの移行戦略として“7つのR”を提唱しました[1]。こうしたフレームワークが登場したことで、企業におけるモダナイゼーションの検討も進んだ背景があります。
その後、大きな契機となったものがコロナ禍によるリモートワークの普及。ガートナーやAWSが提唱するリホスト(OSやアプリケーションをそのまま移行すること)の方法や、COBOLなどのプログラム言語をJavaへコンバージョンするアプローチを中心に、クラウドへのリフト&シフトベースの移行が進み、モダナイゼーションの流れがさらに加速することとなりました。
しかし最近では、クラウドへ移行するためのフレームワークを活用してクラウドリフト(リホストやコンバージョンなど)はできたものの、クラウドへの最適化(クラウドシフト)が進められていないケースもよく耳にするようになりました。このような問題が生じる背景には、IT人材の不足やレガシーシステムの保守・運用上の問題など、システム起点でモダナイゼーションを進めてしまい、クラウドへの移行が目的になってしまっていることが挙げられます。また、コロナ禍でリモートワークができる環境を整えるためにクラウドへの移行を急いでしまったことなども要因として考えられるでしょう。
モダナイゼーションを進めていると忘れがちですが、2025年の崖はあくまでDXに向けて克服すべき課題であって、それが目的ではありません。真の目的は“DXの実現”であるはずですよね。DXを実現するためにはビジョンが明確になっていることが前提ですが、この目標設定がうまくできていないことがモダナイゼーションの進まない根本原因ではないでしょうか。
[1] 2011年にガートナーが5つの選択肢(現在は7つ)として定義したものを、AWSが2016年に6つのRとして独自に定義。AWSは現在、7つのRとして提唱している。