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IFSとワークスアプリケーションズによる提携の狙いは──加熱するERP市場における試金石となるか

 「SAP ERP 6.0」の標準サポート期限切れを迎えるにあたり、「2025年問題」が「2027年問題」と呼ばれるようになると、その移行先や方法を巡って多くの企業が苦労をしている状況だ。追加料金を支払うことで、2030年末まで期限を延長することも可能だが、もはや猶予はない。その中、IFSとワークスアプリケーションズが戦略的業務提携を7月に公表した。その狙いはどこにあるのか、担当者に話を訊いた。

思わぬ副次的効果もみられた、2社による業務提携

 2024年7月10日、IFSジャパン(以下、IFS)とワークスアプリケーションズが戦略的業務提携を発表。そこには、「2層ERP/コンポーザブルERPの可能性を広げる」と題されていた。

 IFSといえば、製造や航空宇宙、エネルギーなどの業種を中心として安定した顧客基盤をもつERPベンダー。現在は「IFS Cloud」を核とした事業展開を進めており、FSM(フィールドサービス管理)やEAM(設備資産管理)などに強みをもちながら、モジュール群によりERPとしてのカバー範囲を広げている。一方、ワークスアプリケーションズ(以下、WAP)は、1996年に「COMPANY」をローンチすると、中堅・大手企業を中心とした業務フローを組み込んだ「HUE」を2015年から提供することで着実にユーザー数を堅調に伸ばしてきた。

 そのような両社に共通するのは、プロダクトの方向性だ。2027年問題において、移行がスムーズに進まない要因の1つに、独自のカスタマイズやアドオン追加が指摘されることは多い。他のERPパッケージも同様に、特に日本における固有の商習慣や人事制度などから、業務要件に沿うように追加開発がなされた結果として、バージョンアップ時に整合性がとれないなどの問題が起きやすく、追加工数などの費用も発生してしまう。

 一方、IFSは標準機能としてモジュール群を拡充することで、カスタマイズなしで適応できるように設計・開発を進めてきた。WAPも顧客からの要望は受けつつ、それを標準機能として改修することで、日本企業に最適化されたERPとして機能拡充を図っている。つまり、提携において掲げられた2層ERPやコンポーザルERPといった設計思想を体現しようとする2社だからこそ、プロダクト面での親和性は高い。財務会計領域を中心にHUEを利用している企業に、FSMやSLM(サービスライフ管理)でIFSを提案するといった動きも進んでいくだろう。

 また、今回の動きはIFSにとって、日本市場への大規模投資の一環にあわせたものだ。一方、2019年8月にHR関連事業をWorks Human Intelligenceに継承させたWAPにとっては、純利益が黒字転換したタイミングでもあり、今後のGTM戦略を考慮した上でもベストタイミングだったという。

(左から)株式会社ワークスアプリケーションズ プロダクトマネジメント本部 本部長 外村卓也氏、IFSジャパン株式会社 プリセールス本部 本部長 竹中康高氏

今回話を伺った2名社担当者からは「新たな可能性がある」との思いを聞くことができた
(左から)株式会社ワークスアプリケーションズ プロダクトマネジメント本部 本部長 外村卓也氏
IFSジャパン株式会社 プリセールス本部 本部長 竹中康高氏

 とはいえ、提携によってプロダクトの方向性や事業方針が変わることはなく、あくまでも両社のポートフォリオを拡大することが狙いだ。もちろん、Fit to StandardでERPを構築したいというニーズは拾っていくものの、SAPの牙城を崩すことを狙ったものでもない。その上で、両社は想定していなかった副次的効果も感じているという。それが監視・制御システムなどのメーカーとの共創だ。

 スマートファクトリーが推進される中では、FA機器をはじめ、あらゆるものが“IoT機器化”されており、通信口をもつ設備が増えてきた。保守・運用していくユーザーにとっては、データを連携させることで稼働状況はもちろん、コスト削減や予知保全の実現につなげられる点は魅力的だろう。その状況下、ERPという枠組みでは競合でもあるIFSとWAPが手を取ったことで、そこに参画することで潜在ニーズを掘り起こし、新たな市場獲得の機会を得たいと考えるメーカーは少なくないはずだ。実際に、今回の提携により、両社には前向きな引き合いも多数きている状況だという。その際、データ形式の課題については、Microsoft Azureを利用している両社の正規化されたデータベースを基に、たとえばMicrosoft Power Platformを経由したREST APIでの提供なども視野にいれているとする。

 エンタープライズにおけるERPと一口に言っても、今やその選択肢は増えてきた。当然ながらSAPと連携しているIFSユーザーも多い中、今回のWAPとの協業は市場拡大の試金石となるのかもしれない。具体的なユースケースや成果は来年以降になるだろうが、どこまで取り組みが広がるのか注視していきたい。

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この記事の著者

岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)

1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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