思わぬ副次的効果もみられた、2社による業務提携
2024年7月10日、IFSジャパン(以下、IFS)とワークスアプリケーションズが戦略的業務提携を発表。そこには、「2層ERP/コンポーザブルERPの可能性を広げる」と題されていた。
IFSといえば、製造や航空宇宙、エネルギーなどの業種を中心として安定した顧客基盤をもつERPベンダー。現在は「IFS Cloud」を核とした事業展開を進めており、FSM(フィールドサービス管理)やEAM(設備資産管理)などに強みをもちながら、モジュール群によりERPとしてのカバー範囲を広げている。一方、ワークスアプリケーションズ(以下、WAP)は、1996年に「COMPANY」をローンチすると、中堅・大手企業を中心とした業務フローを組み込んだ「HUE」を2015年から提供することで着実にユーザー数を堅調に伸ばしてきた。
そのような両社に共通するのは、プロダクトの方向性だ。2027年問題において、移行がスムーズに進まない要因の1つに、独自のカスタマイズやアドオン追加が指摘されることは多い。他のERPパッケージも同様に、特に日本における固有の商習慣や人事制度などから、業務要件に沿うように追加開発がなされた結果として、バージョンアップ時に整合性がとれないなどの問題が起きやすく、追加工数などの費用も発生してしまう。
一方、IFSは標準機能としてモジュール群を拡充することで、カスタマイズなしで適応できるように設計・開発を進めてきた。WAPも顧客からの要望は受けつつ、それを標準機能として改修することで、日本企業に最適化されたERPとして機能拡充を図っている。つまり、提携において掲げられた2層ERPやコンポーザルERPといった設計思想を体現しようとする2社だからこそ、プロダクト面での親和性は高い。財務会計領域を中心にHUEを利用している企業に、FSMやSLM(サービスライフ管理)でIFSを提案するといった動きも進んでいくだろう。
また、今回の動きはIFSにとって、日本市場への大規模投資の一環にあわせたものだ。一方、2019年8月にHR関連事業をWorks Human Intelligenceに継承させたWAPにとっては、純利益が黒字転換したタイミングでもあり、今後のGTM戦略を考慮した上でもベストタイミングだったという。
とはいえ、提携によってプロダクトの方向性や事業方針が変わることはなく、あくまでも両社のポートフォリオを拡大することが狙いだ。もちろん、Fit to StandardでERPを構築したいというニーズは拾っていくものの、SAPの牙城を崩すことを狙ったものでもない。その上で、両社は想定していなかった副次的効果も感じているという。それが監視・制御システムなどのメーカーとの共創だ。
スマートファクトリーが推進される中では、FA機器をはじめ、あらゆるものが“IoT機器化”されており、通信口をもつ設備が増えてきた。保守・運用していくユーザーにとっては、データを連携させることで稼働状況はもちろん、コスト削減や予知保全の実現につなげられる点は魅力的だろう。その状況下、ERPという枠組みでは競合でもあるIFSとWAPが手を取ったことで、そこに参画することで潜在ニーズを掘り起こし、新たな市場獲得の機会を得たいと考えるメーカーは少なくないはずだ。実際に、今回の提携により、両社には前向きな引き合いも多数きている状況だという。その際、データ形式の課題については、Microsoft Azureを利用している両社の正規化されたデータベースを基に、たとえばMicrosoft Power Platformを経由したREST APIでの提供なども視野にいれているとする。
エンタープライズにおけるERPと一口に言っても、今やその選択肢は増えてきた。当然ながらSAPと連携しているIFSユーザーも多い中、今回のWAPとの協業は市場拡大の試金石となるのかもしれない。具体的なユースケースや成果は来年以降になるだろうが、どこまで取り組みが広がるのか注視していきたい。