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IT部門が知るべき「ESG経営実現」のための基本知識

社内から寄せられる「非財務情報管理の要請」いざ対応しようとするIT部門を悩ませる“3つの課題”

第2回:非財務情報管理を阻む“壁”

 これまで以上に多様で正確な非財務情報開示が求められるなか、非財務情報の管理改革に注目が集まっている。情報の質と正確性をDXで担保しようと舵を切る企業が増えている一方、その推進には壁が多いのも事実だ。規制対応としての情報収集に投資をするのではなく、情報を経営意思決定の基盤として活用し、企業価値向上につなげていくために、IT部門は多様な壁をどのように乗り越えていくべきか。必須となるアクションを見ていきたい。

社内から寄せられる要望 着手時にIT部門が悩む課題

 非財務情報管理への要望は、様々な現場からIT部門へ届いている。

 まさに多様かつこれまでにない規模で開示を求められているESG推進部門や投資家エンゲージメントを担当しているIR部門からは、「社内の様々な部門を通じて情報を引き出し、まとめ、必要な開示レポートを作成する作業に追われている」「開示に対する追加質問に答えようにも手元で情報を遡ることができず、都度社内調整や、時には他部門を介して取引先の情報をも引き出しながら対応する工数がかかる」「経営の強化や企業価値の向上につながっていることを可視化できていない」という声がよく聞かれる。

 情報が手元にまとまっていれば良いという簡単な話ではなく、経営の意思決定やサプライチェーン管理などに活用し、企業のESG活動が直接的にどのような効果を生み、社内外のステークホルダーに対してどのような価値向上/創造に寄与しているかを訴求する必要がある。効率化、正確性の担保だけでなく、企業価値向上へ寄与する情報管理への要望は切実だ

 現場部門からも「非財務に関して報告対象項目が増えるだけでなく、内訳データが必要だったり、サプライチェーン横断で企業をまたがる情報の収集が必要だったりと、要請が変化し続けるため対応が難しい」「自分たちが取り組んでいるESG活動がどのような成果を生んでいるのかまでを理解して対応したい」といった声は届く。実際の情報提供側となる現場部門に対しては、情報管理における効率化や正確性の担保だけではなく、いかに「自分事化」し主体的に非財務情報管理に協力してもらえるか、そのための動機付けも重要な観点だ

 企業価値向上につながる非財務情報管理基盤の強化は、もちろん経営層も注視するテーマだ。人的資本の育成や活用の実績、事業活動との連動における成果、サプライチェーン上の温室効果ガス排出量やレピュテーションリスクなどについて、「なぜ適宜数字で報告がなされないのか」「他社は対外開示をしている情報が、なぜ自社は可視化さえできていないのか」「自社の脆弱な非財務情報管理体制について、現在においても改善が進んでいないのはなぜか」など、経営管理のなかで適切に非財務資本配分を実現しようとしても、実態が可視化しきれていない点に課題感や焦りを持つ企業や経営層は多い。

 このような声が多方面からIT部門に届くなか、いざ何らかの対応を取ろうとする場合、さらなる課題がIT部門を悩ませることになる。

 まず1つ目は「非財務情報の多様性」だ。

 対象となる領域や情報種類の多さだけでもハードルが高い。環境関連データと言ってもその種類や範囲、深度が様々なことに加え、人的資本の採用、育成、活用の実績や人材ポートフォリオや事業活動との連動性、知的資本の戦略と事業活動における活用状況、共創先や地域社会との関わりの実態を示す情報、コーポレートガバナンスの関連情報など、実に多種多様な情報を非財務情報として捉える必要がある。

 そして、自社の社内情報だけで完結しない点もこの多様性をさらに複雑にさせている。サプライチェーン全体を視野に取引先の情報や、製品・サービスの提供以降の顧客情報が必要となる場合も多い。自社内の組織だけでなく、企業の枠組みさえも越えた情報を収集管理しなければならない。これらの情報を効果的に収集管理するためには、情報の保有者にその目的を自分事として理解してもらい、収集管理する人とをつなぐプロセス設計が重要になってくる。

 2つ目は、「要件根拠を特定することの難しさ」である。

 非財務情報を取り巻く潮流を鑑みれば明白ではあるが、管理改革を実現する際に参照すべき法制度やイニシアチブ要請が一意ではなく、これもまた多種多様なのだ。結果として、対象情報の種類、収集範囲・頻度だけでなく、データの加工や算出のロジック、アウトプットとしてのレポート要件など一連で拠り所がない状態に陥ってしまう。加えて、これら法制度や外部要請が、将来的にどのようなかたちに拡大するのか、統合していくのか、それに向けて今から何をすべきなのかが未知である点も、IT部門の悩みを深くさせる要素と言える。

 また、この点が定まらない場合、非財務情報の管理改革を進める目的やアプローチも決め難くなってしまう。データ収集の効率化だけで良いのか、加工やレポーティングの効率化・正確性を求めて専用のソリューション活用とするのか、事業活動や事業KPIとの連携を深めることまでも目指し、既存の基盤ソリューションとの融合やデータ活用ツールの統合までも見据えるのかなど、「何に則って、目指す姿をいかに設定するか」を並行で検討しなければならない。

 3つ目は、「成果(投資対効果)の見えづらさ」だ。

 IT部門が突破口となり非財務情報の管理改革を進めるとなれば、投資対効果の設定が重要となる。非財務情報管理においては、その成果の設定が難しい。

 マニュアル作業からの脱却、データ収集や加工に費やす時間の短縮や、データの正確性担保など、一義的な足元の成果は設定でき得る。一方で、企業価値向上への寄与や、事業別KAI(重要行動指標)との関係性を把握しながら現場に必要な非財務資本投下の意思決定を実現する、サプライチェーンネットワークの再設計により強固で安定的な原料調達や製品供給の維持を実現するなど、成果となる要素は設定できるものの、現時点で可視化や計測がされていない要素がほとんどである。そのため、この「成果」を明確に表現するためにも、更なる資本投下が必要になることは事実だ。さらに、この成果が見えづらいが故に、社内各部からの対応要請があっても、その必要性や優先度の判断がしがたいとも言える。

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DXが目的にならないために、中長期の戦略策定を

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この記事の著者

今野 愛美(コンノ マナミ)

アビームコンサルティング 企業価値向上戦略ユニット ダイレクター2006年に入社。国内外企業に対して、企業コンプライアンス/SOX法対応、財務経理/リスクマネジメント業務の改革や教育/意識改革プログラムの策定プロジェクトに従事。現在はアビームコンサルティングのESG/サステナブル経営支援・Digit...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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