経営統合で浮き彫りになった課題:会計システムと予算編成プロセスの壁
日本最大規模の鋼管専門商社として知られる住商メタルワン鋼管。設立は2019年4月と比較的最近だが、住友商事グループとメタルワングループの国内鋼管、配管事業の統合を経て、現在の体制に至った。統合母体になった住商鋼管とメタルワン鋼管のルーツには、日本の高度経済成長を支えてきた多くの鋼管専門企業が存在する。2023年3月末の売上高は約2,000億円、従業員数は約800名の体制で、多種多様な鋼管、配管機材を取り揃え、多くの顧客に提供している。顧客の業種業態は幅広く、自動車から、プラント・エネルギー、造船、建設機械・産業機械などの多くの企業の事業を支えている。また、その事業ネットワークは、北海道から九州まで全国をカバーしている。
同社は2019年4月以降も、統合効果を最大化するためのPMI(Post Merger Integration)に取り組んできた。PMIプロセスでは、各種制度から始まり、業務プロセスやシステムを含むオペレーションインフラの見直しなど、様々なタスクを実行する。一般に「100日ルール」と言われるように、重要な顧客やパートナーへの影響を最小限に抑えるような配慮を含む、優先順位の定義などは短期間に終わらせることができるが、組織の規模、複雑さ、目指す統合の深さなどで、プロセスは長期化することが常だ。住商メタルワン鋼管の場合、2018年8月の統合発表後から統合計画策定に動き、統合と融和に向けての取り組みを続けてきた。
その中心になったのが経営企画室だ。全く異なる2社が完全に統合されるには時間がかかる。たとえば、旧個社で利用していた会計システムが異なる場合にどうするか。単純にどちらかを廃棄するか、全く新しいシステムに乗り換えるかを決めればすむものではない。双方の勘定科目を洗い出し、突き合わせをして、表現が異なる場合は統一しなくてはならない。また、勘定科目コードの見直しも必要になる。2つのシステムで採用しているコードが同じ「1000」でも、割り当てられた勘定科目が違っていれば、集計はできない。統合に向けては新コード体系の整備が必要になる。 住商メタルワン鋼管の場合、会計システムに関しては、初年度は別々のシステムを並行稼働させて乗り切り、次年度から旧住商鋼管で利用していたOBIC 7への統一を実現した。この統一で、事業活動における収益と費用の実績データは信頼できる1つのソースから得られるようになったものの、予算編成のプロセスは、別のやり方で見直す必要があった。
「Excel+メール」の限界と新たな解決策への模索
年度予算編成業務は、大企業であれば、決算月の約半年前から始まることが多い。その方法は、事務局から各部署にExcelで作ったテンプレートへのデータ入力を依頼し、戻ってきたファイルの内容を評価して集計する。集計は一度では終わらず、事務局と部署間の双方向のやり取りは最終化までに複数回に及ぶこともしばしばだ。国内では予算編成をサポートするツールを利用する企業が出てきたが、多くはいまだにExcel+メールの人海戦術で対応している。
統合前、旧メタルワン鋼管で予算編成に携わっていた平山氏は、1人で入力依頼から最終化までを担当していた。「予算編成とは、グループの数だけP/Lを作ること」と平山氏は話すが、旧メタルワン鋼管時代、「Excel+メール」を用いて、課単位で約50ものP/Lを作らなくてはならなかった。Excelはこのような業務に適用できる柔軟性があるものの、事務局にとって現場にやって欲しくない入力行追加や、数字の入力ミスに気づかないままの提出ができてしまう。「送られてきたファイルの内容をそのまま集計しようとしてもおかしな結果になる。何が間違っているのか、全てのシートの中身を検証することに最低1週間は必要だった」と、平山氏は当時を振り返った。
旧メタルワン鋼管側の会計システムの機能を使えないかと検証したこともあったが、各課とのやり取りをサポートしてくれるものではなく、最終化した数値を反映することしかできず、本当の意味で予算編成をサポートするものではなかった。業務負荷のあまりの大きさと、計画値の検証の時間が取れないことを憂慮した平山氏が、解決に向けてツールの探索を始めたのが2018年の年明けのことだ。当時は候補になる製品が少なかったが、IT部門と共に評価してある製品を選んだ。
2018年6月頃から購入稟議のプロセスに進んだが、ここで当時の社長からの「待った」がかかった。その時点では理由は不明だったが、平山氏は2週間後の住商鋼管との合併発表で、「統合を控えたIT資産の評価前には、独自で新しいツールは導入できない」と事情を理解した。また、統合初年度は、会計システムや販売システムの統合を優先的に進めなければならず、予算編成のためのツール導入は見送らざるを得なかった。