マイクロソフト「Ignite 2024」──AIエージェントを実現するCopilot&AI Stackとは
「Microsoft Ignite 2024」レポート#02
米マイクロソフトは、現地時間11月19日から21日にかけてシカゴで「Microsoft Ignite 2024」を開催した。前回に続き、本稿では19日の基調講演のサティア・ナデラ氏の話を取り上げる。講演の導入部で、ナデラ氏はマイクロソフトが「AIドリブンのビジネス変革」を、「Copilot」「Copilot Devices」「Copilot & AI Stack」の3つのプラットフォームでサポートすると語っていた。今回は、3つ目の「Copilot & AI Stack」に関する新発表を重点的に取り上げる。
分散拠点企業向け「Azure Local」とは

Copilot & AI Stack
ナデラ氏によれば、「マイクロソフトの『Copilot & AI Stack』へのアプローチはとてもシンプル」だ。それは、Copilot、エージェント、そしてCopilot Studioで構築したアプリケーションを全て取り込み、テクノロジースタックを構成する「インフラストラクチャー」「データ」「AIアプリケーションプラットフォーム」「開発ツールとアプリケーションサービス」の全てのレイヤーのテクノロジーを用いて、企業が独自のCopilotとエージェントを構築できるようにするものだ。
マイクロソフトはレイヤーそれぞれに新しい機能への投資を実行している。まず、「インフラストラクチャー」レイヤーでは、データセンターへの投資を続けている。過去1年間、マイクロソフトは世界15カ国でデータセンターへの投資を実施した。現在、マイクロソフトは世界60超のリージョンで、データセンターを運営している。直近では建設方法もサステナビリティ重視だ。たとえば、米バージニア州北部にある2つのデータセンター建設では、CO2排出量削減のためにCLT(Cross Laminated Timber)を資材に採用した。従来の鉄骨造と比べ、35%のCO2排出量削減効果を実現できたという。
ネットワークレベルでは、次世代の光ファイバーテクノロジーとして注目の集まる「HCF(Hollow Core Fiber:空孔コアファイバー)」に積極的に投資している。従来型の光ファイバーと比べ、内部構成が全く異なるHCFは、高速大容量のデータ通信ニーズに応えられるとして期待されている。特にデータセンター間の接続で重要なのがファイバーの接続損失の低減である。2024年初めに史上最低水準の損失実証が確認できたことを受け、マイクロソフトではHCFケーブルの生産ルートを確保しており、向こう24カ月で15,000kmの追加を見込んでいる。
Azure Local
ナデラ氏は、Microsoft Azureを拡張する「Azure Local」を発表した。Azure Localは、クラウドとエッジにまたがるグローバルインフラの運用をサポートするもので、ハイブリッド環境、マルチクラウド環境、エッジ環境のいずれでも、共通データ基盤の利用、アプリケーションのデプロイ、統合的な運用とセキュリティが可能になる。小売業、ホスピタリティ業、製造業のように、分散した拠点を多く持つ場合でも、Azure Localを使うことで、ミッションクリティカルなワークロードやAIワークロードを柔軟に実行できるようになる。
Microsoft FabricにSQLデータベースが利用可能に

Microsoft Fabric
データなしではAIは何もできない。続いての「データ」レイヤーでは、「データ分析プラットフォーム『Microsoft Fabric』が中核になる」とナデラ氏は説明した。Microsoft FabricはIgnite 2023で発表されたもので、AIレディのデータレイク「Microsoft OneLake」で、全てのデータを管理することを大きな特徴としている。データがオンプレミス環境にあっても、クラウド環境にあっても、また、Azureではなく、AWSやGoogle Cloudにデータがある場合も同じようにデータ統合ができるようにしている。発表以来、すでにFortune 500の70%を含む16,000社超がMicrosoft Fabricを導入した。
Microsoft Fabricでデータレイクの次の強化の焦点となったのは、データベースである。これまでのデータアーキテクチャーでは、トランザクション処理用と分析用に別々のデータストアを必要としていた。そのため、2つのデータストア間で大量のデータのやり取りが発生していたが、簡素化のため、Microsoft Fabric上でMicrosoft SQL Serverを利用できるようにした。
Microsoft Fabric Databases
Microsoft Fabric Databasesは、トランザクション処理と分析の両方に対応するエンタープライズデータプラットフォームとして機能する。このデータベースには、Microsoft Fabric共通のセキュリティとガバナンスポリシーが適用される。また、Microsoft FabricはVisual Studio CodeやGitHubなどの開発者ツールと統合されているため、この中のデータ資産を活用してのアプリケーション構築も容易になる道筋ができた。
DiskANN
ナデラ氏は、マイクロソフトがデータレイヤーで注力していることの1つとしてベクトル検索を挙げた。「DiskANN」は、レイテンシーが低く、コスト効率よくベクトル検索を行うためのアルゴリズムとしてMicrosoft Researchが開発したものである。すでにBingでは、4,000億超のベクトルインデックスにこのアルゴリズムを適用している。ナデラ氏はこのDiskANNアルゴリズムを、Azure Database for PostgreSQLとAzure Cosmos DB for NonSQLに適用すると発表した。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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