“リアルタイム”な被災者ニーズの把握はどう実現されたのか?
なお、LINEメッセージの具体的なコンテンツの内容は、小畠氏ら県庁職員とデロイト トーマツのコンサルタントが毎週膝を突き合わせて議論しながら内容を練っていった。当時この作業を担当した同社 シニアコンサルタント 小宮啓輔氏によれば、Salesforceのアンケート機能を使って被災者の生の声を収集しながら、被災者の生活再建により寄与できるコンテンツの内容を検討したという。
「たとえば『帰宅に必要な条件』についてアンケート調査を実施したところ、『ガス・水道の復旧』という回答が思いのほか多く寄せられました。そこでLINEメッセージで配信するコンテンツにも、ガス・水道の復旧状況に関する情報を多く載せるなど、被災者の方々のニーズをリアルタイムに反映させるコンテンツ作りを心掛けました」と当時を振り返る。
なお小畠氏は、この公式LINEアカウントを通じた情報発信・登録の仕組みについて、「大きな手応えを感じている」と話す。
「避難者を属性ごとにセグメントに分けてそれぞれに最適化したコンテンツを配信できますし、避難者のニーズをリアルタイムで拾いながらメッセージをプッシュ配信できる仕組みは、今後の災害対応時にもきっと役立つと思います」(小畠氏)
一方で、高齢者を中心にLINEを使いこなせない住民も多く、「そうした住民の方々をどのようにケアしていくかが、今後に残された課題です」と同氏は指摘する。
ちなみにステップ2で構築した広域被災者データベースシステムはその後も進化を続け、現在では国の「デジタル田園都市国家構想交付金」事業の一環としてさらに本格的なシステム構築に取り組んでいる。被災者情報は個人情報を含むため、それらを扱うシステムには高い安全性が求められる。しかし、災害発生時の一刻を争う状況下では、個人情報保護の制度が避難所の弾力的な運用の足かせになる場面もあるという。
谷場氏は、「今後の災害対策を考える上では、こうした法制度の運用も考慮に入れた議論が必要だと考えています」と提言する。
「石川県では震災後も奥能登豪雨などの災害に見舞われましたが、そうした経験を踏まえたり、あるいは有識者の方々の声を聞いたりしても、やはり災害現場でのひっ迫した状況下では個人情報の扱いが問題になる場面が多いと感じます。一方でデジタル技術は年々進化し、防災DX官民共創協議会のような座組も機能し始めている中、どのようにデジタル活用と法制度のバランスをとっていくべきなのか。私たちも国の交付金などを活用しながら、広域被災者データベースシステムの開発を通じて模索していきたいと考えています」(谷場氏)